大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン1月号(2017.11.25 第14回三府県内科医会合同学術講演会)

第14回三府県(大阪・奈良・和歌山)内科医会合同学術講演会

超高齢社会における内科臨床のトピックス

 大阪府内科医会(会長・福田正博氏)、奈良県医師会内科部会(会長・山田宏治氏)、和歌山県医師会内科医会(会長・西谷博氏)による「三府県内科医会合同学術講演会」が11 月25 日、大阪市内のホテルで開催された。府内にそれぞれの県立医科大出身の会員が多いことから年1回、共催を重ねており、今回で14 回目となる。くしくも東北地方にゆかりのある3氏が演者を務め、高齢者診療に関わる教育講演2題と特別講演が行われた。( 編集部)『呼吸器疾患の漢方』

教育講演Ⅰ 「これからのインフルエンザ・肺炎マネージメント〜新・肺炎治療ガイドライン2017 を中心に〜」

3タイプの肺炎をひとくくりに:
「成人肺炎診療ガイドライン2017」

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東北医科薬科大学病院 感染症内科・感染制御部/教授 関 雅文氏 

ウイルス株変更の影響からワクチン不足を招いた今冬のインフルエンザだが、特に高齢者の重症化を防ぐため、合併症としての肺炎の適切な治療が求められる。感染症学を専門とする関雅文氏は、日本呼吸器学会がまとめた「成人肺炎診療ガイドライン2017」について解説した。改訂のポイントとして①院内肺炎(HAP)と医療・介護関連肺炎(NHCAP)を1つの診療群とし、市中肺炎(CAP)と分けて診療プロセスを明確に示した② HAP およびNHCAP においては、疾患終末期あるいは老衰といった不可逆的な死の過程にある場合、看取りを念頭に個人の意思やQOL を考慮した治療・ケアを行う可能性を示した――の2点をまず挙げた。具体的なフローチャート形式なので、非専門医でも迷うことなく治療方針を検討できる。
 日常生活の中で発症するCAP は、A ‐ DROP(肺炎の重症度分類)による評価で治療場所や治療薬を選択する。また、CAP では敗血症の有無も重視されている。すぐにICU へ連絡するべき重症患者を拾い上げるために、敗血症の新基準qSOFA スコア(▽呼吸数22 回/分以上▽意識変容▽収縮期血圧100mmHg 以下)を使うと容易である。これに対し、HAPはI-ROAD を用いる。なお、中間に属するNHCAP では、HAP とひとくくりにしながらも、CAP に準じてA-DROP を用いるのがコツ。原因菌判明時の抗菌薬選択薬を説明した上で関氏は、広域スペクトルを有するマクロライド系薬について、免疫を調節し、炎症を抑制する作用も報告されていることから、他の抗菌薬と併用することで、ICU 入室の可能性や画像所見の増悪を抑制する可能性を指摘した。一方、国際的にも大きな課題となっている薬剤耐性菌問題をめぐり、厚生労働省の「抗微生物薬適正使用の手引き(第一版)」を紹介。唾も飲み込めない人生最悪の痛みなど「Red Flag」を伴う急性咽頭炎に抗菌薬使用を限るなどメリハリを付けた処方が望ましいかもしれない、とした。

教育講演Ⅱ 「内科医も知っておきたい膝関節疾患の診断と治療」

活動的なアクティブシニアに増えているACL損傷

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弘前大学大学院医学研究科整形外科学講座 教授 石橋恭之氏

 大腿骨、脛骨(けいこつ)および膝蓋骨(しつがいこつ)とその周囲を取り巻く靭帯や筋肉、軟骨、腱などで構成される膝関節は、屈曲伸展と回旋によって歩行をはじめ、さまざまな運動をスムーズにしている。スポーツ整形外科を専門とする石橋恭之氏は、前十字靭帯(ACL)と半月板損傷、変形性膝関節症(膝OA)の鑑別疾患にフォーカスを合わせて詳述した。
 膝は人体最大の関節であるが、大腿骨と脛骨接触面の形状が適合性不良であるため、それを支える靱帯や半月板など軟部組織が発達している。これらの組織はさまざまな動きで損傷しやすく、最もスポーツ傷害を起こしやすい部位である。医学的には捻挫と言わず、損傷部位を限局した「〇〇靭帯損傷」を使う。中でも頻度の高いACL損傷は思春期以降に急増するが、中高年層の受傷も増えているという。プロサッカークラブのチームドクターも務める石橋氏は「膝をひねった場合、まずACL 損傷を疑うこと」と強調。靭帯損傷に伴う半月板損傷の診断は、関節裂隙(れつげき)の圧痛が最も有用と説明した。
 X 線上の関節狭小化は、加齢と共に0.1mm /年ずつ進行する。膝OA の手術は、変形を矯正して除痛とOA 進行の予防を図る「骨切り術」と、人工関節への置換がある。手術の実際を動画で示し、それぞれのメリット・デメリットを解説した上、高齢者に適したスポーツとして▽一定で適度な強さ▽全身性▽基礎疾患を悪化させない(膝OA における過度なランニングなど)――を紹介した。また、整形外科疾患で頻繁に処方されるNSAIDs 服用による潰瘍予防をめぐり、NSAIDs 経口剤と添付剤の併用とほぼ同様の鎮痛・QOL 改善・ロコモ度改善が期待できるロコアテープの活用を推奨した。その他、膝OA と鑑別を要する疾患としてステロイド投与で発生する骨壊死、明らかな原因なく発症する突発性骨壊死、高度な関節破壊と変形が生じる神経障害性関節、ステロイド性関節症の予防と治療が取り上げられた。

特別講演 「腎臓生理を考慮した糖尿病性腎症の治療」糖尿病性腎症治療に求められる

生命予後の改善

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近畿大学医学部腎臓内科 主任教授 有馬秀二氏

 国内で血液透析を受けている患者数32.5 万人のうち、糖尿病性腎症は、透析導入の原因疾患として最多の43.7%を占めている(日本透析医学会調査/2015 年12 月31 日現在)。80 年代前半に60%を超えていた慢性糸球体腎炎が学校検尿による早期発見などで16.9%へと激減した推移と対称的に高止まりしている。コメンテーターとしてメディアへの出演機会も多い腎臓内科専門医の有馬秀二氏は、腎臓生理の観点から糖尿病性腎症を進行させないための治療戦略についてアウトラインを報告した。
 糖尿病性腎症は、微量アルブミン尿も出ていない第1期(腎症前期)から糸球体に血液を供給する輸入細動脈が拡張し、全身血圧が正常でも糸球体高血圧が引き起こされ、その結果、GFR が増加する。それ以降、第2期(早期腎症)微量アルブミン尿陽性→第3期(顕性腎症)持続性タンパク尿陽性→第4期(腎不全)血清Cr 上昇→第5期(透析期)へとおよそ15 ~ 20 年かけて進展していく。糸球体高血圧は糸球体硬化を引き起こし、腎障害を加速度的に進める。糖尿病におけるこうした糸球体血行動態を踏まえて有馬氏は、腎症前期のステージから腎保護すべきと主張した。
 糖尿病性腎症の場合、透析導入から15 年後の累積生存率が11.5%と極めて予後不良である。治療はインスリン抵抗性、糖・脂質代謝、糸球体高血圧を改善させるレニン‐ アンジオテンシン系阻害薬を主体に130/80mmHg未満の厳格な血圧管理と併せ、DPP‐4阻害薬やSGLT‐2阻害薬で血糖コントロールを行う。治療の目的に関して有馬氏は、腎保護よりも心血管疾患の予防を含めた「生命予後の改善が重要だ」と強調。特にSGLT 2阻害薬ルセオグリフロジンを取り上げ、糸球体過剰ろ過を改善するだけでなく、その尿細管作用を介して糖による尿細管障害や心疾患イベントの抑制、体重減少効果が期待できることから、脱水の心配のない肥満糖尿病患者への積極的投与が望ましいとの見解を示した。