大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン11月号(2017.8.24 定例学術講演会)

原因不明の自己免疫疾患「膠原病」求められる専門医との連携

 大阪府内科医会(会長・福田正博氏)は8月24 日、大阪市内で定例学術講演会を開催した。全身性エリテマトーデス、関節リウマチに代表される膠原病は、原因不明の自己免疫疾患で全身のあらゆる臓器を障害する。とりわけ急性型の場合、短期で死に至るケースもあり、仮診断を下す前の所見の時点で疑いがあれば、ためらわずに専門医へ送ることが求められる。当日の講演では、鑑別診断のポイントと併せ、膠原病患者が受診した際の対応などが詳しく説明された。

『 一般内科医が知っておくべき膠原病の知識―みつけ方・患者への対応―』

早期発見で救命できる
     予後不良のSLEや血管炎

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大阪医科大学 リウマチ膠原病内科 専門教授 槇野茂樹氏

あり得る「臓器を守らない選択肢」

 実地医家にとって膠原病は、日常的に扱う機会がほとんどなく、風邪などと似通った症状もあるため、診断の極めて難しい病気とされている。全国でも屈指の診療体制(専門医26 人・指導医6人)で年間2万4050 人の外来患者を受け入れている大阪医科大学リウマチ膠原病内科の槇野茂樹氏は、対象疾患と診断の要点、治療の実際など幅広く伝えた。
 膠原病は、自己反応性リンパ球が活性化し、自己抗体を産生、または自己反応性T細胞を駆動し、自己免疫現象を起こす疾患のうち、多系統が攻撃対象となる一連の疾患群の総称で次の6群のみが該当する。
①全身性エリテマトーデス(SLE)②関節リウマチ(RA)③強皮症群=強皮症、混合性結合組織病④皮膚筋炎/多発性筋炎⑤血管炎群=高安動脈炎、巨細胞性動脈炎、川崎病、多発性動脈炎、肉芽腫症性多発血管炎、好酸球性肉芽腫症性多発血管炎、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、IgA 血管炎⑥シェーグレン症候群(SSorSjS)─。これらの疾患は、進行速度を下げることが治療目的となる「慢性型」(RA、強皮症、SSorSjS)と病勢を鎮圧する「急性型」(SLE、皮膚筋炎/多発性筋炎、血管炎群)および「多臓器罹患型」(SLE、血管炎群)と「少臓器罹患型」(RA その他)に大別される。膠原病科では、特に専門性が要求されるSLE や血管炎に限らず、関連疾患を含めてフォローする。しかし、約130 万人と推計される患者数に対し、同領域の専門医は少なく、関西には膠原病内科医が1人しかいない県もある(大阪府78 人)。そのため、専門性要求度の低い強皮症やSSorSjS、リウマチ性多発筋痛症など専門医以外が管理することも多いという。
 治療法は①免疫系の攻撃を弱める「免疫抑制療法」②発症した症状を軽くする「抗炎症療法」③すでに壊れてしまった臓器の機能を補う「補償療法」─の3つしかない。①と②は反作用が起こるため、免疫系の攻撃が弱かったり、全身的な犠牲を払ってまで攻撃されている臓器を守る価値が小さいと判断されたりした場合「守らない選択肢もあり得る」と説明された。
 2000 年以前の治療では、病勢の強いRA を制御できず、しばしばpoly-surgery(再手術)を経て誤嚥性肺炎などの感染症で死亡していた。専門医にもこれといった治療法はなく、多くの患者が民間療法に手を出していた。長らく治療法は曖昧なまま推移していたが、分子標的薬の開発や臨床研究の積み重ねにより、飛躍的に進歩した。現在、RAにおいては、臨床的寛解を目指す世界共通のガイドラインとして4つの基本原則と10 項目のリコメンデーション(推奨方法)で構成された「Treat to Target」 (T2T) が設けられている。2000 年以降、病勢の強いRA でも多くは制御可能となった。しかし、RA の治療薬MTX や生物学的製剤は高い有効性の半面、副作用・使用上の注意点が多く、さらに多種類に及ぶことから槇野氏は「専門家以外に使いこなせない。慎重さが求められるので、やるなら専門医になるつもりで行うこと」と啓発した。
 専門性要求度(5ランク)でSLEは、最も要求度の高い「タイプ1 A 」(多臓器疾患・急性型=要「積極急性期治療」)、血管炎はその次の「タイプ1B」(同)にランキングされている。講演では、膝関節痛で受診した70代男性に起こったMPA、60 代女性SLE 患者のunder treatment(処置不十分)、50 代女性SLE 患者へのステロイド中止など短期間に死亡した症例と、専門医による早期の治療で救命した事例の数々が紹介された。これらの症例を通じて槇野氏は「SLEおよび肺胞出血など重篤な症状を招くMPA は、近くの総合病院でなく、遠くても専門医のいる医療機関へ送るべき」と繰り返し強調した。

実地医家に問われる「見つける力」

 実地医家に望まれる対応は、可能性の高い集団(関節痛、レイノー症状、皮疹、持続発熱、RFor 抗核抗体陽性)、もしくは専門医と非専門医で診断・治療に差が出る特定疾患(SLE、血管炎:特にMPA、膠原病性間質性肺炎合併、肺高血圧を合併した強皮症)の患者が受診した時にしっかり見つけ出すこと。槇野氏は「自分で何とかしようとせずに早く専門医へ送ってほしい。日頃から特定疾患を標的にしておき、見つけられたらファインプレー」と聴講者に呼び掛けた。
 膠原病の発見に有用な問診は、関節痛・皮膚病変・発熱・レイノー症状・光線過敏の既往歴と乾燥症状・再発性口内炎の有無の7項目だけ。これを踏まえて診察は▽手と手指(視診/触診)=関節腫脹、指先:陥凹・潰瘍・機械工の手(Mechanic'shand)・爪床出血、手指:Gottron徴候、逆Gottron 徴候、手指硬化、手指浮腫、Mechanic's hand、膿疱、潮紅の有無、レイノー、変形▽顔面(視診)=ヘリオトロープ疹、蝶型紅斑、環状紅斑▽下腿(視診/触診)=下腿前面:結節性紅斑、紫斑、網状皮斑、浮腫▽口腔(視診)=潰瘍─のチェック項目を押さえる。実地医家の診療で比較的多い関節痛患者が受診した際に最も見つけるべき疾患はRA(血液検査= CRP・抗CCP 抗体/ RF)であり、次いで若年女性ならSLE(抗ds‐DNA 抗体・補体・沈渣を伴う検尿)とされる。
 RA の治療では、関節炎の完全鎮静が目指されるが、状況によって低疾患活動性で妥協される。抗リウマチ療法(対関節炎療法)を主体に免疫調整療法と抗サイトカイン療法(抗炎症療法)が行われるが、免疫抑制剤も用いられる。治療薬は、MTX、Tac、生物学的製剤、JAK 阻害薬など。新しい治療法としてDenosumab( 抗破骨細胞剤、RANK 阻害など)が試みられている。
 一方、SLE では、疾患本体の鎮静が目指されるが、完全鎮静を目標にする施設は少ないという。治療は、大量ステロイドと免疫抑制療法がベースとなり、大半の症例で強い薬剤が必要。女性の比率が高く、大阪医科大学リウマチ膠原病内科では、膠原病母性外来を開設するなど妊娠をサポートする方向で管理している。