大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン7月号(2017.5.25定例学術講演会)

大阪府内科医会 5月定例学術講演会

超高齢社会で増加傾向にある
        多発性骨髄腫治療最前線

 大阪府内科医会(会長:福田正博氏)は5 月25 日、大阪府内科医会5月定例学術講演会を大阪市内で開催した。多発性骨髄腫は慢性疾患であり、以前は治療法がなく早期発見しても有効な治療法が確立されていなかったが、さまざまな治療薬が登場している。また、患者が増加傾向にある中、専門医も限られ、実地医家との連携が重要となっている。学術講演会では、診断・分類・治療法に加え、多発性骨髄腫の治療戦略が披露された。

「骨髄腫の診断と治療」

多発性骨髄腫治療は完全奏効を目指す

京都鞍馬口医療センター 内科医長 淵田真一氏

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多発性骨髄腫は、2003 年度の年齢調整全国罹病率によると、男性2.4 人/ 10 万人、女性1.7 人/ 10 万人と男性に多く、骨髄腫患者初診年齢(中央値)は男性65 歳、女性67 歳、全体で66 歳であり、罹患率は白血病よりも少ない。
淵田氏は冒頭、多発性骨髄腫について、「高齢者にまれな疾患であり、治療戦略を考える上で重要な点である」と説明。初診時に最も頻度の高い症状に骨痛を挙げる。「患者の4人に3人が骨の痛みを訴える。そのため、整形外科から紹介されるケースも多く、また、健康診断で貧血を指摘されたケースや腎臓の値が悪いこと等から見つかるケースもある」。多発性骨髄腫の症状は実に多彩であり、前述の症状以外にも、骨が溶けて血中にカルシウムが流れ出すため、血中カルシウムが上昇し、高カルシウム血症を来す場合もある。淵田氏はこれらの症状を骨髄腫関連臓器障害(CRAB)と説明し、これが骨髄腫だという症状はないと話す。
多発性骨髄腫とは、骨髄での形質細胞の腫瘍性増殖により発症する。正常な形質細胞は抗体を産生するが、多発性骨髄腫を発症すると、異物の刺激に関係なく抗体を産生し続けてしまう。「しかもこの抗体は異物をなくす働きはしない」。この異常な抗体をM タンパクと呼び、CRAB の症状は骨髄腫細胞とM タンパク(免疫グロブリン)により引き起こされる。骨髄腫が発症する原因については明らかにされていないが、骨髄腫細胞にはさまざまな遺伝子や染色体の異常が生じているといわれている。
多発性骨髄腫が疑われる場合、診断・病期決定・予後判定のためには血液・尿検査、骨髄穿刺、画像検査等、さまざまな検査を行う。「最初に行う検査が血液検査と尿検査で、血液検査は全血球値(CBC)・生化学(総タンパク量、アルブミン、ALP、LDH、BUN、CRE、カルシウム、電解質、b2 ミクログロブリン等)を調べ、骨髄腫のほか腎障害の有無を確認する。尿検査ではM タンパクの1 つであるベンス・ジョーンズタンパク(BJP)が尿のみに排出されている場合があるため、タンパク電気泳動で尿中のM タンパクの有無を調べ、免疫電気泳動を行いM タンパクの型を確定する」。淵田氏はタンパク電気泳動について、血清中のタンパクの分布を示したものがタンパク分画(タンパク電気泳動)であると話す。「あまり行われない検査であるが、血清中には100 種類以上のタンパクが存在し、病態によってさまざまなパターンを示す。分画値のみならず、パターンそのものを観察し、異常タンパク体の出現の有無やb-linking などの異常所見をとらえる」。
多発性骨髄腫では総タンパク量が上がり、アルブミン量が下がるのが特徴である。つまり、免疫グロブリンが多量に作られるので、総タンパクが増加する。免疫グロブリンは重鎖と軽鎖からなり、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5つの型(重鎖)に分類され、それぞれk とl(軽鎖)がある。「多発性骨髄腫では、5種類の免疫グロブリンのうち一つだけが増加している。骨髄腫細胞は1種類の免疫グロブリンしか作らないため、たとえばIgA を産生する骨髄細胞であればIgA だけが増加する。このとき、IgG、IgM、IgD、IgE は減少していることが多い」。
次に骨髄穿刺(骨髄検査)について淵田氏は、患者をうつぶせにして腸骨に局所麻酔を行い、骨髄に進み、注射器で骨髄液を吸い上げると説明。主に染色体検査、遺伝子検査を行う。通常の染色体検査では異常が見つからない場合があるため、FISH 法と呼ばれる方法で特定の染色体異常を調べることもあるという。
画像検査は、骨単純X 線検査を行う。「骨髄腫は破骨細胞が活性化され、骨芽細胞が抑制されているため、骨がもろい状態になっている。MRI は全身を撮影するのは難しいので、脊髄を中心に撮影する。CT の場合は、骨盤までを撮影する」。

QOLを低下させることなく 長期生存を得る

多発性骨髄腫の病態は複雑で、悪循環を形成して病態が引き起こされている。分類としては、骨髄腫細胞やMタンパクの量が3g/dL 以上、骨髄腫細胞の割合が10%以上で、症状がほとんどない無症候期(無症候性骨髄腫)は治療せず、症候期(多発性骨髄腫)、症候性骨髄腫へと進行したら治療を開始すると淵田氏は話す。また、「M タンパク量3g/dL 以下、骨髄腫細胞の割合10%未満で、症候性骨髄腫の定義も満たさない意義不詳の単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS:Monoclonal Gammopathy of Undetermined Significance) と呼ばれる型がある。治療の必要はないが、骨髄腫に進展する可能性があるため、定期的な検査を必要とする」。
多発性骨髄腫はアルブミン値とb2ミクログロブリン値を調べ、病期を決定する。「アルブミン値が3.5g/dL 以上、b2 ミクログロブリン値が3.5mg/L 未満がステージ1、アルブミン値にかかわらずb2 ミクログロブリン値5.5mg/L 以上はステージ3、残りがステージ2と分けられている」。病期はこの国際病期分類(ISS)により分けられ、治療開始の判断と言うよりも予後の予測に有用だと強調した。
これにより骨髄腫治療が開始されるが、骨髄腫は再発・再燃を繰り返し治癒しない。しかし近年、新規治療薬の登場等によって多発性骨髄腫の治療成績は改善している。治療の本格的な始まりは1962 年に「メルファラン」「プレドニゾロン」との併用によるMP療法までさかのぼる。MP 療法の登場以後、さまざまな抗がん剤を加え強化するなどしたが、長い間MP 療法を凌駕する治療法が登場しなかったという。しかし、65 歳以下の患者に限り、1996 年に大量抗がん剤投与を併用する自家幹細胞移植(auto-PBSCT)が開発され、若年患者の予後はかなり改善された。「65 歳以上の患者は、免疫調整薬『サリドマイド』の登場で大きく変わり、2015 年以降は年間2剤登場するなど新規治療薬が開発され続けている」。
2006 年登場の「レナリドミド」2015 年登場の「ポマリドマイド」も「サリドマイド」と同じ免疫調整薬であり、作用機序については完全に明らかになっていないというが、骨髄腫細胞に対して増殖抑制作用を示し、免疫を活性化させて骨髄腫に効果があるという。ちなみに、「サリドマイド」「レナリドミド」「ポマリドマイド製剤」は、厳密な管理と全例登録の上処方が義務付けられている。
「免疫調整薬とともに骨髄腫のキードラッグとなっているのが、『ボルテゾミブ』等のプロテアソーム阻害剤と呼ばれる分子標的薬である。『サリドマイド』『レナリドミド』『ボルテゾミブ』の登場で予後が大きく改善されている」。
繰り返しになるが、骨髄腫は治癒しないため、治療効果判定基準は完全奏効(CR)を得ることが重要だと淵田氏は訴える。「自家幹細胞移植や新規治療薬によりCR が得られる症例が増えている。より深い奏効を得ることが生存期間の延長につながることが報告されており、CR を目指した治療が重要となる」。
淵田氏は従来の病勢をコントロールする治療からCR を目指す治療へと変わりつつあると述べるものの、治癒困難な疾患であることは変わりなく、副作用などによりQOL を低下させることなく長期生存を得ることが多発性骨髄腫の治療目標であるとまとめた。