大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン6月号(2017.4.22 第12回定時総会記念講演会)

実地医家が果たす希少疾患も見落とさないゲートキーパーとしての役割

 大阪府内科医会(会長・福田正博氏)は4月22 日、第12 回定時総会ならびに記念講演会を大阪市内のコンベンションホールで開催した。今期は、第31 回日本臨床内科医学会の受け入れが控えており、重ねて参加と協力が呼び掛けられた。総会に引き続いて企画された記念講演会では、大阪府医師会の茂松茂人会長が医療情勢について総括したほか、ファブリー病と慢性腎臓病をめぐる講演2題が行われた。

講演1「最近の医療情勢」

高齢化背景に進む医療制度改革とその問題点に言及

大阪府医師会 会長 茂松茂人氏

【講演1】大阪府医 茂松茂人会長.JPG

人口の高齢化を背景に税収が伸び悩む中、自助(患者負担)・公助(公費)・共助(保険料)からなる国民医療費は、病院完結型の治療から地域全体で支える予防や指導に重心を移している。医療ならびに社会保障制度を取り巻く一連の流れを各種統計で表した大阪府医師会の茂松茂人会長は、割合を増す国民負担率について「世界に通用しない概念がまかり通っている」と社会保障費抑制の動きに言及した。併せて「OECD では、社会支出(SocialSpending)として肯定的。年金のような移転所得は現役世代のインセンティブを損なわない限り、本来的にプラス」との見解を示した。また、総合診療医の創設や新専門医制度に対しては、拙速な導入を懸念し、慎重に論議を深めてきた過程を説明した。男性は、GLA 活性値の低下(正常の10%以下)が認められれば確定できる。しかし、ヘテロ接合体女性患者の場合、全身症状が軽く、GLA 酵素活性も正常だったりするので診断は困難とされる。鑑別診断に関して藤田氏は「まずファブリー病を疑うことが大切」と前置き「GLA 活性測定(ろ紙血採取法)、家族歴、遺伝子検査、GL3 の測定、特異的な症状である四肢末端の疼痛、無・低汗症の有無等、自覚症状を組み合わせて総合的に判断しなければならない。症状だけで診断は困難だが、明確な発症を待っていると治療開始が遅れる」と、遺伝子異常が判明している家系の家族全員に遺伝子検査を行って罹患児を同定することや新生児スクリーニングをかけるなど「積極的な診断」を呼び掛けた。

 
講演2「日常診療に潜むファブリー病」

積極的な鑑別診断で減らせる見落としの可能性

大阪医科大学循環器内科 助教 藤田修一氏

【講演2】大阪医大 藤田修一助教.JPG

 希少疾患の中には、ガイドラインがあるにもかかわらず、臨床医の認識不足から早期に診断・治療されないまま経過してしまいがちなものも見受けられる。ライソゾーム病と呼ばれる疾患群に含まれる遺伝性の糖脂質代謝異常症ファブリー病もその一つ。ライソゾーム内の加水分解酵素a- ガラクトシダーゼ(GLA)が先天的に欠損、あるいは極端に活性低下していることから細胞に必要のない糖脂質= GLAの基質グロボトリアオシルセラミド(GL3)が全身にたまる。そのため、患者が「砕けたガラスを踏んだように痛い」と訴える四肢疼痛や脳血管障害、左室肥大、タンパク尿、角膜混濁、腹痛・下痢・便秘・嘔吐等さまざまな症状が現れる。被角血管腫のように皮膚科医が見つけることの多い症状もある。循環器内科を専門とする大阪医科大学の藤田修一氏は、ファブリー病の遺伝形式のほか、その診断と治療法について詳説した。
 X染色体連鎖性遺伝の同病は、ヘミ接合体、ヘテロ接合体ともに発症する。男性は、GLA 活性値の低下(正常の10%以下)が認められれば確定できる。しかし、ヘテロ接合体女性患者の場合、全身症状が軽く、GLA 酵素活性も正常だったりするので診断は困難とされる。鑑別診断に関して藤田氏は「まずファブリー病を疑うことが大切」と前置き「GLA 活性測定(ろ紙血採取法)、家族歴、遺伝子検査、GL3 の測定、特異的な症状である四肢末端の疼痛、無・低汗症の有無等、自覚症状を組み合わせて総合的に判断しなければならない。症状だけで診断は困難だが、明確な発症を待っていると治療開始が遅れる」と、遺伝子異常が判明している家系の家族全員に遺伝子検査を行って罹患児を同定することや新生児スクリーニングをかけるなど「積極的な診断」を呼び掛けた。
 治療としては「酵素補充療法」が確立しており、『リプレガル』(一般名:アガルシダーゼa)と『ファブラザイム』(一般名:アガルシダーゼb)の2剤が承認されている。開始のガイドラインは▽成人男性(16 歳以上)=ファブリー病診断時▽小児男性=明ら診断仮説に情報を集めて検証する仮説演繹法かな症状が出現したとき。無症状の場合は10 ~ 13 歳で開始を考慮▽女性(全年齢)=経過観察。明らかな症状が出現したとき、または臓器障害の進展が確認されたとき─となっている。心筋の線維化がない段階で酵素補充療法を行うと、左室肥大や心不全の重症度分類であるNYHA 心機能分類が改善すること等が報告されている。講演を通じて藤田氏は、同病の可能な限り早期の診断と治療の開始を強調した。

講演3「CKD 診療のピットフォール─ファブリー病など希少疾患を含めて─」

CKD対策として不可欠な
     健診/検診と急がれる専門医との連携

大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科学 教授 猪阪善隆氏

【講演3】阪大大学院医学系研究科 猪阪善隆教授.JPG

 日常診療で早期発見と進行予防が求められる慢性腎臓病(CKD =Chronic Kidney Disease) は、『CKD診療ガイド』に基づき、専門医への紹介基準(①尿タンパク 2 +以上または0.5g/gCr 以上②尿タンパクと血尿がともに陽性1 +以上③ GFR < 50mL/分/1.73㎡)がまとめられている。大阪府内科医会々員(かかりつけ医)による積極的な健診でハイリスク者をスクリーニングし、専門医へ紹介する連携体制の強化が望まれる。とりわけ大阪府の特定健診受診率は、全国平均よりおよそ10 ポイントも低く、働き盛りの壮年層に多い要治療者の受診に結びついていない現状が問題視されている。無治療の場合、20 年で40 ~ 50%が透析導入に至るIgA 腎症の予後を改善する扁摘+ステロイドパルス療法やMCNS(微小変化型ネフローゼ症候群)に対する分子標的薬リツキシマブ等治療の現状に加え、検診(検尿)で糸球体腎炎の透析導入患者数が25年前に比べて約1/3 に減るなど、健診/検診の重要性を訴えた大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科学の猪阪善隆氏は、知見から得られた注目すべき11 症例を提示した。
 ファブリー病とa- ガラクトシダーゼA 補充療法、さまざまな合併症を伴う多発性嚢胞腎とその進行を抑制する水利尿剤トルバプタンの臨床治験結果、軽度の血圧低下でも起こり得る正常血圧虚血性急性腎障害、心不全が悪化した高齢男性に水制限・ループ利尿薬増量・サイアザイド薬追加が行われる理由等、知っておきたいトピックスがクイズ形式を交えて列挙された。
 ▽高Ca 血症と急性腎障害を来した女性(産婦人科外来受診時38℃台の熱発、浮腫、関節痛。血液検査でCr8.4mg/dL と高値。5日後、腎臓内科紹介受診、緊急入院。既往歴:拒食症)のミルク・アルカリ症候群=大量の牛乳と炭酸カルシウムを含む制酸剤を主とする消化性潰瘍の治療が昔、行われていた▽急性腎障害を来した中国出身の女性(検尿異常を指摘されたことはない。橋本病のため近医でフォロー中。血液検査でHb11g/dL Cr0.9mg/dL だった)。半年後の採血で、Hb6.1g/dLCr0.9mg/dL と貧血と腎機能低下が認められたため精査目的に入院=出身地から漢方薬を疑ったが、服用歴なし。結果、貧血改善を目的にシュウ酸Caを多く含むホウレンソウの過剰摂取(4束/日)だった─など極めて珍しい症例も報告された。
 CKD の診断・生活指導・治療をめぐって猪阪氏は、生活習慣病と密接関連性を持つことを踏まえ、内臓肥満をもたらす食生活や運動不足、喫煙・飲酒等危険因子を除くよう心掛ければ、心血管系イベントの発現だけでなく、一人当たり医療費が高額になる新規透析導入も減らせると結んだ。