大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン3月号(2017.1.26定例学術講演会)

日常生活や社会活動に支障来す

「ふるえ」の機序にアプローチ

大阪府内科医会(会長・福田正博氏)は1月26日、大阪市内で定例学術講演会を開催した。日常診療において「ふるえ」は比較的身近な症状だが、原疾患のない本態性振戦と、神経変性疾患(パーキンソン病、多系統委縮症)、二次性振戦(甲状腺機能亢進症、薬剤性振戦、アルコール性振戦、末梢神経疾患、その他)のように何らかの原因が特定されるグループに分けられる。当日の講演では、QOLを損なうふるえの鑑別と治療の実際について臨床現場から最先端の動向が伝えられた。

『ふるえの鑑別と治療』

間違えられやすい本態性振戦とパーキンソン病

大阪大学大学院医学系研究科 神経内科学 教授 望月秀樹氏

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診断に求められる
症状の違い見極める観察力

実地医家の診察室でも主訴の多いふるえは、日常生活に困らなければ特に問題視しなくても構わない。まったくの健常者であっても緊張や興奮、筋肉疲労、寒冷、発熱などで細かな不随時運動(生理的振戦)は生じる。しかし、ふるえを引き起こす何らかの原因が疑われる場合、その疾患を明らかにして治療するため、早期に臨床診断しなければならない。パーキンソン病の発症機序の解明と臨床研究で知られる大阪大学大学院医学系研究科神経内科学の望月秀樹氏は、最も多い本態性振戦とパーキンソン病の他、薬剤性振戦、甲状腺機能亢進症、起立性振戦など疾病ごとに異なるふるえの特徴について、承諾を得た患者のビデオ画像で視覚的に説明した。
有病率2.5 〜10%を示す本態性振戦は、一般的にパーキンソン病と誤認されがちだが、発症年齢や好発部位、家族歴、ふるえの現れ方などに明確な違いが見られる。最も大きな診断のポイントは、安静時にふるえが消失するか、あるいは出現するかの観察になる。
本態性振戦はふるえ以外の症状がない。両腕を伸ばすなど一定の姿勢を取ると間もなく現れ、患者によっては飲食や書写など日常動作が困難になるほどふるえるが、安静時に消失する。診断に際しては▽両側性の上肢の姿勢時振戦▽通常、左右差はない▽家族歴のあるケースが多い▽加齢に伴って上昇するが、20 代と60 代の二峰性で発症する▽症状の個人差は大きい▽軽度の小脳症状(継ぎ足歩行の異常など)の合併も比較的多い▽画像・病理所見での変化は乏しいが、近年では小脳系の異常が指摘されている─などが挙げられる。
一方、原因責任タンパク質の1つであるa-synuclein の脳内沈着やミトコンドリア異常をきっかけに120〜130 人/ 10 万人の割合で発症するパーキンソン病による振戦は、本態性振戦と逆に安静時に出現し、姿勢を取ると消失する。通常、左右差が見られ、家族歴はない。ふるえに加えて筋肉がこわばる固縮や無動・寡動、姿勢反射障害、非運動症状(嗅覚障害、便秘、レム睡眠行動異常症、認知症)などを伴う。ダットスキャン読影では、黒質神経細胞の脱落やレビー小体の出現が認められる。

経管投与など広がる
パーキンソン病新規治療の可能性

パーキンソン病進行期治療の問題点について望月氏は「抗パーキンソン病薬がしだいに効かなくなる」ことを指摘。この理由としてドーパミン補充薬レボドパ(一般名)の血漿中濃度が長く保たれるハネムーン期から運動合併症発現期を経てレボドパ抵抗期へと移行する過程で「効果発現の閾値が上がるのに対し、ジスキネジア(抗パーキンソン病薬の服用によって起きる不随意運動)発現の閾値は下がる。そのため、患者が動きやすいと感じる薬物の血中濃度域(有効治療域)が狭くなる」とのフローを図示した。
経口投与に代わる新しい治療に関しても紹介された。2004 年、スウェーデンで承認を受けた『デュオドーパ』は、レボドパ含有製剤を含む既存の薬物療法で十分な効果が得られないパーキンソン病の症状の日内変動(ウェアリングオフ)に対する治療薬として昨年7月に国内で製造販売承認を取得(日本は50カ国目)。胃ろうをつくり、専用の小型携帯型注入ポンプとチューブを用いて『デュオドーパ』(レボドパ/カルビドパ製剤の黄色いジェル)を直接、十二指腸へ持続投与する。とりわけ闘病生活が長期にわたり、ウェアリングオフに悩まされることが若年性パーキンソン病の患者にとって大きな救いになっているという。
その他、講演では、さまざまな症例が動画で報告された。特殊な事例では、姿勢時にふるえが出るパーキンソン病振戦や姿勢を取ってもすぐにふるえが出ない本態性振戦、胸腹部・四肢の内側のふるえを訴えているが、他覚的に分からない状態といった標準に収まらない「神経内科医泣かせ」のタイプもあり、見極めを困難にしている。
二次性振戦をめぐっては、薬剤性振戦をはじめ、甲状腺機能亢進症、起立性振戦、末梢神経障害、課題特異性振戦─など実地医家ではまれにしか遭遇しないような症例の振戦を、ビデオを用いて詳細に紹介された。
振戦の治療開始にあたって望月氏は「まずストレス対策などの生活指導が考えられるが、十分な効果のある対処法がない場合、軽症の段階では必要時のみ薬物を投与。精神的な緊張で悪化するときには、マイナートランキライザーを服用する。また、振戦で減効果が証明されているβ交感神経遮断のプロプラノロール、あるいは抗てんかん薬のプリミドンを使う」との指針を示した。症状が強く、日常的に常時障害がある場合は、薬物を定期的に服用する。この際の第一選択薬は、プロプラノロール、アロチノロールとプリミドンとなる。その次に重症度や治療効果によって薬物療法、ボツリヌス毒素療法、手術療法(定位脳手術)が検討されると治療法を概説した。

振戦治療のトピックス

 手術には感染や痛み、コスト、恐怖などリスクが伴うが、これらを解決する手段として望月氏ら大阪大学大学院神経内科と彩都友好会病院との連携で、「収束超音波療法」の治療法開発を進めている。手術をすることなく、脳内の病変を改善させる新たな治療法である。具体的には、髪の毛を剃ってMRIに入り、超音波を多数方向から1 カ所に集めることで治療部位の温度を上げることにより治療する。MRI 内で温度を経時的に測りながら、症状が軽減されるまで十分に治療する。治療時間は、3〜4時間程度である。この間には、麻酔もせず症状を確認しながら加療する。将来的には、パーキンソン病の振戦やゴルフや野球などスポーツのイップス、ミュージシャンの職業病(フォーカル・ジストニア)への適用も含めて治療の幅を広げる可能性が期待されている。

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