大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン2月号(2016.12.20堺市医師会内科医会学術講演会)

大阪府内科医会【共催】堺市医師会内科医会学術講演会

健康寿命の延伸やQOL損なう
「新たな国民病」慢性腎臓病(CKD)

大阪府内科医会(会長・福田正博氏)は12 月20 日、堺市医師会内科医会と学術講演会を共催した。メタボリックシンドローム(生活習慣病)に伴う内臓肥満、高血圧、高血糖、脂質異常など中高年に身近な症状の多くは腎機能の低下を招き、慢性腎臓病(CKD)につながる危険因子となる。当日は、早期発見と適切な治療に導く健診・検診の意義を含め、多発性嚢胞腎をめぐる治療の実際が取り上げられた。

『CKD 対策としての健診・検診の意義と病診連携〜多発性嚢胞腎の診断と治療を含めて〜』

鍵握る健診・検診による
早期発見と進行予防

大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科学 教授 猪阪善隆氏

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自覚症状のない初期に求められる
適切な治療

日本腎臓学会がまとめた『CKD診療ガイド』によると、慢性腎臓病(CKD = Chronic Kidney Disease)の患者は、成人(20 歳以上)の8人に1人に当たる1330 万人と推計されており「新たな国民病」としてクローズアップされている。講師を務めた大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科学の猪阪善隆氏は、CKDの病態とそのリスク、新たなステージ分類、生活習慣病との関わりなど日常診療で早期発見と進行予防を担う実地医家が押さえておくべき基礎知識を中心に治療のポイントを示した。
腎臓は、体液量の調整と老廃物の排泄をつかさどる泌尿器系の機能(▽体内の水分を一定に保つ▽尿素窒素など老廃物を尿中に排泄▽酸を尿中に排泄して体を弱アルカリに保つ▽ Na・K・Ca・P・Mg などミネラルの調節)のほか、造血ホルモン(エリスロポエチン)の産生分泌、骨を丈夫にするビタミンD の活性化、血圧調整(レニン‐ アンギオテンシン系)を行う内分泌系の器官としても働く。
体内を循環する血液は、フィルターの役割をこなす糸球体で老廃物がろ過され、原尿(尿のもと)になる。1日に排泄される尿量=成人約1.5L に対し、糸球体でろ過される原尿の量(GFR)は、家庭用のバスタブとほぼ同じ約150L/day になるという。原尿は、糸球体に続く尿細管を通過する際、血液に吸収される一方、再び尿細管から排泄・分泌され「99%リサイクルされる」。そのため、原尿の量はおよそ100 分の1に減って排尿される仕組みになっている。
糸球体は、1分間に100mL/1.73㎡の血液をろ過する。このろ過量(GFR)やタンパク尿が腎機能の状態を調べる手掛かりになるが、正確なGFR を測定するのは容易ではない。日本腎臓学会は、血清クレアチニン値と年齢、性別からGFR を近似的に算出する計算式「推算GFR」を作成。CKD の新たなステージ分類として腎機能の重症度(病期)評価に用いている。
CKD は、2002 年に米国腎臓財団が発表した比較的新しい概念で次のように定義されている。 
①尿異常、画像診断、血液、病理で腎障害の存在が明らか。特に0.15g/gCr 以上のタンパク尿(30mg/gCr 以上のアルブミン尿)の存在が重要。
② GFR<60mL/min/1.73㎡。
上記の①あるいは②のいずれか、または両方が3カ月以上持続――。
それぞれの数値の意味について猪阪氏は「①はフィルターの穴が大きくなっている。②はクレアチンがたまる= GFR が低下⇒フィルターが目詰まりしている」と説明した。
CKD の初期には、自覚症状がほとんど現れない。この段階で適切な治療を受けずに放置していると、腎機能が低下し続けて末期腎不全に至り、透析療法の導入を招く。さらに心血管イベントの発現リスクも高まる。CKD 患者の脳卒中や心筋梗塞の発症率は、健常者と比べて男女とも3倍多いと報告されている。
人工的に体内のイオンバランスを調整する透析療法には、血液透析(週2 ~ 3 回、1回4 ~ 5 時間かけて体外に血液を取り出し、ダイアライザーで老廃物や余分な水分を取り除いて体内へ戻す)と腹膜透析(1 日4回、自分でバッグ交換して透析液を入れる。1回当たり30 分程度。通院は月1~2回)のいずれかを専門医と相談して選択する。
人工透析は患者のQOL を著しく損なうが、それに加えて猪阪氏は、患者1人当たりの医療費が糖尿病や脂質異常症、高血圧症など患者数の多い疾病との比較で突出して高額な点を指摘。「糖尿病性腎症による新規透析導入患者数は、日本腎臓学会のCKD 対策の開始(2004 年)やメタボ健診(特定健診)の実施(2008年)によって頭打ちの傾向にある。今後、さらに健診・検診の意義を啓発して早期発見に努めるとともに、病診連携の強化が必要」と訴えた。
CKD は、生活習慣病と密接な関連性を持つ。食事や運動、喫煙、飲酒、睡眠、内臓脂肪など動脈硬化を促進するライフスタイルを改善すれば、心血管系イベントの発現だけでなく、新規透析導入も減らせる。2018年に健診項目の見直しが検討されているが、健診(▽将来の疾患リスクを確認する検査群=健康づくりの観点から経時的に値を把握することが望ましい検査群。陰性でも行動変容につなげる狙い)と検診(▽現在の疾患自体を確認する検査群=陰性であれば次の検診まで経過観察)の違いを予備軍まで含めた患者に伝える取り組みが実地医家に求められる。大阪府の特定健診受診率は、全国平均よりおよそ10 ポイントも低く、とりわけ働き盛りの中壮年層に多い要治療者の受診に結びついていない現状が問題視されている。日常の診療で健診を促し、的確なスクリーニングでハイリスク者を検診へ送るフレームづくりが待たれるところだ。

CKDの発症と進行防ぐポイントは
生活習慣の改善

これらを踏まえて猪阪氏は、CKD の中でも腎不全に陥る頻度の高い多発性嚢胞腎の薬物療法についても言及した。両側腎臓に多数の嚢胞が進行性に発生・増大し、頭蓋内動脈瘤、心臓弁逆流、大動脈瘤など腎臓以外の臓器にもさまざまな合併症を引き起こす。猪阪氏は「早期に専門病院へ送られていない実態がうかがえる」と警鐘を鳴らす。
これまで有効な治療法がなく、主に高血圧や腎不全に対する対症療法にとどまっていたが、2014 年に初めてその進行抑制の適応を取得した利尿剤「トルバプタン」が世界に先駆けて日本で承認された。同剤は、同患者において腎容積の増大を有意に抑制する作用が認められている。
超高齢社会を背景に健康寿命の延伸を希求する動きが高まる中、国民健康づくり運動『健康日本21』では、循環器の数値目標を低めに設定するなど集団全体にかかるリスクを低い方へ誘導するポピュレーション戦略で予防的対策を打ち出している。CKD をめぐって猪阪氏は「エネルギー・食塩の過剰摂取、運動不足、飲酒・喫煙、ストレスといった生活習慣の改善が発症・進行の抑制に重要」と結んだ。

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