大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン8月号掲載【H28.6.18第11回定例総会記念講演会】

大阪府内科医会 第11回定例総会 記念講演会

超高齢化社会に増える認知症の
現状と診断・薬物治療の実際


  大阪府内科医会(会長・福田正博氏)は6月18日、第11回定時総会ならびに記念講演会を大阪市内のホテルで開催した。平成27年度事業ならびに決算・監査報告を承認した総会の席上、大阪府医師会の次期会長に選出された茂松茂人氏が来賓挨拶。

記念講演会では、認知症をめぐる講演2題のほか、大内会(805会員)で実施した「認知症診療に関する調査」の結果が伝えられた。

教育講演「実地医からの認知症」

認知症の診察は介護者への聞き取りが不可欠

くぼりクリニック院長 久堀 保 氏

知っておきたい認知症患者に寄り添う「ユマニチュード」の手法

 超高齢社会を背景に増える認知症の患者数は、団塊の世代が後期高齢者となる2025年に700万人に達すると予測されている(厚生労働省推計値)。実地医家として地域医療を支える、くぼりクリニック(大阪市住之江区)の久堀氏は、アルツハイマー型認知症(AD)、レビー小体型認知症、脳血管性認知症、前頭側頭型認知症の特徴を説明。それぞれに異なる経過や診断法の実際と認知症患者への対応のポイントについてレクチャーした。  
 認知症の症状は、中核症状(記憶障害、失認、実行機能障害など)と周辺症状(妄想、徘徊、抑うつ、不安・焦燥、幻覚、暴言など)に分けられる。認知症の症状は、最も身近な介護者に強く現れ、時々会う人には軽く出る。久堀氏は「中等度まで診察室で通常と変わらず会話できることが多く、早期発見が困難な一因になっている」と指摘。診断に至るまでの流れを次のようにまとめた。  
 本人からの問診→診察→(介護者からの問診/心理テスト)→画像検査→診断。  
 診察に関して久堀氏は、患者本人の自覚症状の乏しさなどから日常的に接している介護者への聞き取りが 不可欠と前置き、周辺症状および生活歴(出生地や趣味)、職業歴などが患者と話す時に役立つと接遇の工夫を披露した。また、下着の汚れや爪の手入れ、レビー小体型認知症に見られるパーキンソン病症状 (振戦、小股・加速歩行など)の兆候の有無をよく観察して見落とさないことが重要と訴えた。
 検査は、心理テスト(▽知能評価:長谷川式簡易知能評価スケー ル、MMSE ▽臨床評価:FAST)、頭部MRIのほか、脳血流(SPECT)、MIBG心筋シンチグラフィー、DATシンチグラフィーなどが行われる。頭部MRIのオーダーをかける際、ルーチンの項目に「冠状断(FLAIR)」を追加すると「ADに特徴的な海馬の萎縮が分かりやすいため、診断が明確になる」との助言も行われた。
 診療を通じた経験則から久堀氏は、認知症ケアとして「ユマニチュード」の手法が有効と強調した。▽見る=目の高さを同じにして20cmほどの距離で見つめる▽話す=前向きな言葉で優しく繰り返し話しかける▽触れる=背中や手などに手のひらを添える▽立つ=1日最低20分は立つように支援─以上の5つのステップで認知症の周辺症状は、相当和らぐと報告された。
 物とられ妄想や幻視・幻聴、徘徊、興奮・暴言など認知症には、さまざまな症状が現れる。久堀氏は「多くの場合、周辺症状は介護者の不適切な対応が原因になって起きる。患者に居場所と役割を与え、患者に共感して接すること」と述べ「地域包括センターなど他機関と連携しつつ、 介護保険の案内を含め、まずは介護者の教育指導に努めてほしい」と呼び掛けた。


特別講演「アルツハイマー型認知症の薬物療法」

認知症治療に新しい選択肢

香川大学医学部 精神神経医学講座 教授 中村 祐氏

コリンエステラーゼ阻害薬3製剤+
メマンチンの選択で迎えた新時代

 高齢者人口の増加に伴い、認知症を取り巻くさまざまな問題がクローズアップされている。徘徊や妄想、幻覚、暴言・暴力、弄便、睡眠障害など周辺症状(BPSD)は、患者自身のQOLを低下させるだけでなく、想定外のトラブルを招き、介護者の心身を疲弊させる。香川大学医学部附属病院・物忘れ外来で認知症高齢者に対応する中村氏は、国内で販売されている抗認知症薬4製剤それぞれの作用や特徴、使い分けなど最新の薬物治療の実際について概説した。
 実地医家でも圧倒的な第一選択薬となっているコリンエステラーゼ阻害薬『アリセプト』(ドネペジル)は▽1日1回投与▽吐き気や嘔吐は比較的少ない▽適応重症度が広い(軽度~高度)▽自発性を上昇させる効果が強い▽使い慣れている▽重症度に合わせて増量が必要▽海外に比べて用量が低い(軽~中等度で5mg/day)▽血中半減期が約90時間と長く、飲み忘れで効果が落ちにくい─といった特徴がある。
 2011年以降、『レミニール』(ガランタミン)、『リバスタッチパッチ』(リバスチグミン)、NMDA受容体拮抗薬『メマリー』(メマンチン)が製造承認されたことで使い分け、および併用できるようになり、ADの治療は、世界基準で行える新たな時代に入った。
 ガランタミンは、酵素によって分解される神経伝達物質アセチルコリンの減少を防ぐとともに、ニコチン性アセチルコリン受容体を刺激し、アセチルコリンの放出を増やす作用がある。これは、他の抗認知症薬にない働き。また、ドネペジルで効果不十分、焦燥や下痢、不眠が見らる症状のほか、糖尿病症例、禁煙させたい症例で有用といった特性も備えている。
 アセチルコリンエステラーゼ阻害作用とブチリルコリンエステラーゼ 阻害作用を併せ持つリバスチグミン は、軽~中等度の患者でドネペジルの効果が不十分なケースや焦燥感を減らしたい時に有効。パッチ(貼付)剤なので吸収が緩徐で血中濃度が安定するというメリットがあり、中村氏は「内服剤の欠点を補う」と評価した。特に食欲の衰えている患者、無気力な症例に有効で「途切れなく投与することが可能」とのポイントが示された。
 メマンチンは、他の3製剤と比べ、特異なNMDA受容体拮抗作用を現す。このため、コリンエステラーゼ阻害薬との併用も可能になっている。その他、メマンチンについては▽神経保護作用による進行抑制▽焦燥、攻撃性、徘徊、常同行為に有効▽早期の退院が必要な症例に有用 ▽心房細動や徐脈などChEI投与が 難しい症例に有用─などの特徴が 挙げられた。
 以上を踏まえ、中村氏は、コリンエステラーゼ阻害剤による治療において効果不十分な場合、副作用が出現した場合、イライラ・焦燥感が出現した場合などにコリンエステラーゼ阻害剤を変更することの有用性を示した。また、メマンチン(20mg/ day)を併用することの有用性につ いても述べた。一方、在宅では、メ マンチンとコリンエステラーゼ阻害剤の併用が有用であること、施設入所では、メマンチンの有用性が大きいことなどを説明。さらに漢方の『抑肝散(よくかんさん)』がイライラ・焦燥感、不眠に使いやすいとした。