大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン2月号掲載(H27.11.21三府県内科医会合同学術講演会)

三府県(大阪・奈良・和歌山)内科医会合同学術講演会

「高齢者診療の三本の矢」をテーマに
三疾病(呼吸器感染症、骨粗鬆症、糖尿病)を解説

 大阪府内科医会(会長:福田正博氏)、奈良県医師会内科部会(会長・堀江浩章氏)、和歌山県医師会内科医会(会長・西谷博氏)は11月21日、合同で学術講演会を開催。「高齢者診療の三本の矢」をテーマに、呼吸器感染症、骨粗鬆症、糖尿病の治療の現況と展望について、各専門家が講演した。 (編集部)

教育講演1 高齢者の呼吸器感染症マネジメント~肺炎・インフルエンザの治療と予防~

インフルエンザ・肺炎球菌の
Wワクチンで罹患・重症化を予防する

東北薬科大学病院 呼吸器内科・感染管理対策室 病院教授 関 雅文氏

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 関氏は、高齢者の呼吸器感染症マネジメントをテーマに、インフルエンザおよび肺炎の診療動向を解説。冬季に増大する両疾患について、長期療養の病院や介護施設の入所者では、院内感染で広がりやすく、かつ体が弱っていることも多いため、特に重症化する可能性があることから、予防対策に最も留意すべきと訴えた。インフルエンザや肺炎での死亡率は通常1、2%程度とされているが、高齢者施設内での感染では10%以上に。なることもある。その背景について関氏は「インフルエンザウイルス、肺炎球菌を単独で感染している場合は軽症から中等度の肺炎ですむ。しかし、感染が重なってしまうことで重症化し、高齢者では特に重篤な状態に移行しやすくなるのではないか」と分析。さらに、高齢者が肺炎に罹患すると繰り返しやすくなり、入院が長引くと、体力が低下する、認知症が発症しやすくなるといった負のスパイラルに陥りやすい。そのため、誤嚥性肺炎や、冬季における風邪・インフルエンザなどによる肺炎への移行を抑えるには、できるだけ早めの治療や予防的対策をとる必要があることを強調した。
 その方策の1つがワクチンで、インフルエンザワクチンは2015年に3価から4価と増株され守備範囲が広がった。肺炎球菌ワクチンも2014年から23価莢膜多糖体ワクチン(PPV23)が高齢者を対象に定期接種化され、沈降13 価肺炎球菌結合型ワクチン(PV13)も乳幼児だけでなく高齢者への使用が可能になった。インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンによるダブルワクチンによって、入院費用や重症化、死亡率の軽減が期待されるという。
 2つの肺炎球菌ワクチンの使い分けに関しては「一般的にはPPV23 を使用し、基礎疾患がある場合にはPV13から使う。あるいは、PV13 を最初に使い、PPV23 を追加接種するのも理論的にはよいと思う」(同氏)。肺炎自体は治る疾患だが、体力の低下が著しく、最悪の事態を招くこともあるため、関氏は常に前倒しに予防することを意識してほしいと呼び掛けた。

教育講演2 骨粗鬆症治療におけるビタミンD 療法の位置づけ

カルシウム吸収を促すビタミンDは
ベース治療薬としての投与が有用

慶應義塾大学医学部 スポーツ医学総合センター 岩本 潤氏

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 骨粗鬆症による椎体骨折や大腿骨近位部骨折は、健康寿命を縮めるだけでなく死亡率を高めることも知られている。岩本氏は、骨粗鬆症治療の重要性とともに、治療におけるビタミンDの役割を明確に示した。近年、骨粗鬆症治療薬は新薬が続々と登場しているが、第一選択薬は強力な骨吸収抑制作用を持つビスホスホネート(BP)製剤。BP には注射製剤も加わり、投与経路が選択できるようになった。岩本氏は、注射製剤選択のポイントとして、経口製剤で効果が見られない、上部消化管障害が発生する、認知症などで服薬コンプライアンスが不確実といった事例に勧められると説明した。
 この骨吸収抑制剤の効果を引き出す上で必須となるのは、加齢とともに低下するカルシウム吸収能の改善だ。ビタミンD には、腸管からのカルシウム吸収を促進し、血清カルシウムを増加させ、副甲状腺ホルモンの分泌を抑制し、骨石灰化を促進する働きがある。カルシウム吸収能改善に、海外ではカルシウム・ビタミンD のサプリメントが普及しているが、日本では活性型ビタミンD3 製剤が用いられているという。
 活性型ビタミンD3 製剤の骨折抑制効果について、岩本氏はBP 製剤と併用した臨床試験を紹介。アルファカルシドールとBP 製剤の併用では、荷重骨骨折の抑制や骨折リスクの高い症例における椎体骨折の抑制に効果的であったこと、エルデカルシトールとBP製剤の併用では、大腿骨頸部骨密度の増加に有用であったことを示した。昨今では、ビタミンD が筋力増強など骨以外に作用することが判明し、転倒抑制効果も期待されている。それを踏まえ、岩本氏は「活性型ビタミンD3 製剤はベース治療薬としての投与が有用」とした。さらに、骨粗鬆症に関連する骨折の抑制には、栄養指導と運動療法も必須であり、薬物療法と三位一体で行われることが重要との認識を示した。
 
特別講演 2型糖尿病治療の現状と今後の展望

増加傾向の若年メタボ型糖尿病には
アドヒアランスのよい治療薬を選択

滋賀医科大学 内科学講座 教授 前川 聡氏

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 前川氏は、2型糖尿病治療の現状として、処方動向の変化や若年肥満糖尿病の増加を示し、抗糖尿病薬による心血管リスクの低減にも言及した。
 経年比較を行っている糖尿病データマネジメント研究会(JDDM)調査の2013 年度結果では、平均HbA1c値が目標値である7%を2002 年の調査開始後初めて下回った。2012 年度実施の滋賀県医師会調査でも、平均HbA1c 値や平均7%未満の達成率が、前回調査の2006 年度より改善していた。その背景として、前川氏は2009年にDPP-4 阻害薬が登場し、処方内容に変化があったことを示した。
 一方、これらの調査では、BMI25を超えるメタボ型糖尿病が増加し、特に若年者に多く見られることも明らかになった。若年糖尿病患者は治療率が低いことが知られ、アドヒアランスのよい継続可能な治療薬が求められる。前川氏は軽度肥満ならDPP-4 阻害薬を、メタボ型なら体重減少作用を有するSGLT2 阻害薬が選択肢の1つになると説明。SGLT2 阻害薬については、血糖改善や体重減少のほか、脂質改善、血圧低下、尿酸低下といった臨床効果が期待されている。ただし、脱水や脳梗塞、低血糖、尿路感染症、皮疹などの有害事象が推測され、高齢、非肥満、腎機能不良などの場合は、避けられるべきだろうという。
 一方、SGLT2 阻害薬については昨年、心血管リスクを減少させたEMPA-REG OUTCOME 試験が注目された。同試験では心不全の既往にかかわらず、一定の効果が得られたことも判明している。また、わが国における適正使用のrecommendation と異なる65 歳以上、BMI30 未満、腎機能不良例などに有益性が高かったことも分かり、前川氏は試験開始時に血圧や脂質異常の治療が適切に行われていたことで、同薬の効果がより引き出されたのではないかと考察した。

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