大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン12月号掲載(H27.9.30定例学術講演会)

大阪府内科医会 定例学術講演会

診断・治療の質と患者満足度高める
外来迅速検体検査の意義

 大阪府内科医会(会長・福田正博氏)は9月30 日、大阪市内で定例学術講演会を開催した。今回は、日常の診療現場においてオーダーされる検体検査をめぐり、受注側の臨床検査医の立場から外来迅速検体検査の現状と課題、自動血球計数器のもたらすベネフィットなどが伝えられた。 (編集部)

「臨床検査に求められるもの―速くて確かな臨床検査を目指して―」

速さと同時に要求される
「正確性」ならびに「精密性」

京都府立医科大学感染制御・検査医学 講師 
京都府立医科大学附属病院臨床検査部 副部長 稲葉 亨氏

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「血球数算定+CRP」5分以内に同時測定する装置開発

 検査医学は、血液や尿など検体の分析結果を通じて診断・治療につながる情報を臨床医へ提供する役割で「データと患者を結ぶ懸け橋」となっている。京都府立医科大学の臨床検査部で約20 年にわたり「速くて確かな臨床検査」の実践と後進の指導に当たってきた稲葉氏は講演冒頭、外来迅速検査の意義について「早期診断による重症化の防止と、不要な検査や受診回数の減少に伴う医療費の削減」と説明した。
 2006 年4月に新設された「外来迅速検体検査加算」は、外来患者に対し、当該保険医療機関で行われた検体検査について当日中に結果を説明した上、文書で情報を提供し、結果に基づく診療が行われた場合に算定できるインセンティブ・フィー。患者の視点に立った技術として評価されたことから2年後には、対象項目が外部委託項目を含む全ての検体検査から現実的な40 項目へと絞り込まれ、保険点数も1項目につき5倍増の5点(最大25 点)に引き上げられた。さらに2010 年度改定で10 点(最大50 点)にアップされ、病院経営面においても大きく寄与している。
 迅速な臨床検査を実現するための必須条件としてTAT(turnaroundtime =検査依頼・受付から結果判明・報告までの所要時間)の短縮が挙げられている。具体的には「検体の前処理」と「実際の測定にかかる時間」の2点を工夫することで時短が図られる。
 代表的な炎症マーカーである白血球(WBC)数の場合、血球計数器で分析する自動法は前処理不要で、WBC 分類を含めた結果が約5分で分かる。これに対し、顕微鏡下で行う目視法は、塗抹標本作製に約30分、目視鏡検に約5 ~ 10 分を要する。血清CRP は、凝固/遠心に約20 分、測定終了までに約10 分。赤沈は、WBC 自動法、血清CRP と比較し、特異度(偽高値)、TAT(迅速性)、保険点数とも及ばず、その使い勝手の悪さから「赤沈不要(一人負け)論」が出ている。しかし、赤沈とCRPの検査結果のかい離は、敗血症性DIC の簡単なマーカーになるなど赤沈の利用価値は十分ある。そこで稲葉氏の施設では、Westergren 管を使って実測する従来の手法でなく、赤血球の沈降パターンを光学的に処理し、20 分後/ 40 分後の実測値から1時間値/2時間値を算出する自動法を採用しているという。
 凝固/遠心の前処理に時間のかかる血清CRP のTAT 短縮を目指した稲葉氏らは2008 年、堀場製作所(京都市)と共同で自動血球計数CRP 測定装置『MicrosemiLC‒667CRP』を開発した。WBC 3分類を含むCBC(complete bloodcount =全血球数算定)と、炎症の早期発見に役立つCRP(C‒reactiveprotein = C 反応性タンパク)を同時に測定できる同装置の採血管は、EDTA スピッツ1本のみで血清検査用スピッツが不要であり、さらに検体量も全血18mL(CBC 用10mL/ CRP 用8mL)とごくわずか。測定時間は4分しかかからない。前記した通り、血清CRP は、前処理の血清分離に約20 分要するが、同装置はCBC 用検体の一部を分取して無遠心のまま瞬時に溶血処理後に血漿CRP を測定することによってTAT を短縮している。
 ただし、同装置にも短所はある。①測定原理上、EDTA 全血でのCRP 単独測定は不可② CRP の測定範囲:0.2 ~ 20mg/dL = 高感度CRP 測定試薬ではない③ WBC3分類(顆粒球、リンパ球、単球)は、保険診療上算定不可─。それぞれのウイークポイントに関して稲葉氏は①=現実にはCRP 単独測定の依頼はまれ②=(高感度CRP 測定による)動脈硬化スクリーニングは目的ではなく、急性炎症の評価のためだけと割り切ると指摘。一方、③の問題については、電気抵抗の差異(WBC の大きさの差異)で分けるWBC 3分類(電気抵抗法)だけでなく、WBC の内部構造の差異が分かる比色(吸光)法を加えることで解決。2013 年、WBC を5分類できるCBC + CRP 測定装置『PentraMS CRP』の開発にこぎ着けた。
 『Pentra MS CRP』は、採血管=EDTA スピッツ1本/検体量=全血35mL /測定時間3.5 分のスペックを備える。前の装置LC‒667CRPより採血量が増えているが、血液1滴は約50mL であることを考えるとごく微量といえる。ただし、現在の技術では好中球桿状核球と分葉核球の自動分離ができないため、WBC自動分類は5分類が限界だという。

究極の素早さ目指して進む臨床現場即時検査(POCT)

 このように重ねられてきた検査所要時間の短縮だが、さらに素早い臨床現場即時検査(POCT = Point ofCare Testing)も普及している。被験者の傍らで医療従事者が行うPOCTの検査機器には、携帯性と同時に簡便な操作性も要求される。POCT の主な検査項目は、尿一般、血糖、妊娠試験、排卵試験、動脈血酸素飽和度、インフルエンザ抗原、便中ロタウイルス抗原、尿中レジオネラ抗原、尿中肺炎球菌抗原、トロポニンT、H‒FABP、NT‒proBNP、ミオグロビンなどがあり、心筋梗塞やうっ血性心不全といった救急現場や感染症の初期医療現場のほか、大規模災害時の仮設診療所でも活用されるようになっている。
 一方、一般用検査薬を使ったOTC(over the counter)検査ならば一般生活者でも簡単に行える。採血の不要な尿検査では、尿糖・尿タンパク検査薬(1991 年認可)や妊娠検査薬(1992 年認可)が普及。そして昨年4月、臨床検査技師法が改正され、ガイドラインに沿った検体測定室のある薬局などで被検者が自己採取した検体による生化学的検査が法的に認められた。測定項目はいわゆるメタボ健診および特定保健指導の範囲内に限られるが、関係団体からは便検査、感染症抗原検査、アレルゲン特異的IgE、女性ホルモン、電解質、鉄などまで範囲拡大するよう要望が出されている。これに対し稲葉氏は、被検者から検査結果に対する質問を受けても薬剤師など検体測定室の医療従事者が回答できない制限などから、本格的普及に疑問を呈した。
 臨床検査の現場では、検査従事者に対する生涯教育や検査機器・試薬の保守管理の徹底などにより、正確性と精密性の担保に努めている。しかし、各検査施設で使用している機器・試薬はさまざまで固有の特性を有しており、同一検体でも結果にズレが生じたりする。特に凝固線溶系検査でこの傾向は強いという。最後に稲葉氏は、ある種の補正を加えることで異なる検査施設間でも検査結果の比較ができる事例としてワルファリン投与時の薬物モニタリングに用いられるプロトロンビン時間国際標準率(PT‒INR)について詳しく解説した。

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