大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン6月号掲載(2015年)

大阪府内科医会 第10回定時総会 記念講演会

『女性のミカタ』プロジェクトと「骨粗鬆症」「過活動膀胱」の現状


 大阪府内科医会(会長・福田正博氏)は4月18 日、第10 回定時総会ならびに記念講演会を大阪市内のホテルで開催した。本年度は、法人化10 周年と前身にあたる大阪内科小児科医会発足65周年の節目が重なり、6月20 日に記念式典を計画。事業・予算案を承認した定時総会に続く記念講演会では「健康寿命の延伸」と「患者満足度」の向上を目指す『女性のミカタ』プロジェクトに関する調査結果ならびに「骨粗鬆症」「過活動膀胱」についての講演が行われた。大阪府内科医会理事の正木初美氏、大阪市立大学大学院講師の今西康雄氏による2講演を取り上げる。 (編集部)

講演1
「『女性のミカタ』の意義・患者満足度調査結果報告」

QOL確保に望まれる
チェックシートの窓口配布

大阪府内科医会 理事 正木初美氏

【大内会】正木初美氏 (300x249).jpg


骨粗鬆症、過活動膀胱は閉経後に起こりやすい代表的疾患

 
 通院中の50 歳以上(閉経後)女性患者とかかりつけ医を対象にした『女性のミカタ』プロジェクトは、平均寿命(86.61 歳)と健康寿命(74.21歳)の格差が12.4 年もある女性(男性9.02 年)に起こりがちな骨粗鬆症と過活動膀胱について早めの受診を促す一方、医療機関に相談しやすい雰囲気づくりを提案する運動。
 女性の健康維持に不可欠なエストロゲン(女性ホルモン)の分泌量が減少する閉経後、生活習慣病をはじめ、さまざまな疾患が起こってくる。特に骨折から寝たきりへとつながる骨粗鬆症、身近な症状でありながら恥ずかしさのあまり受診をためらう過活動膀胱は、その代表的なものに位置付けられている。同プロジェクトでは、ホームページ(http://jyoseinomikata.jp/index.html)からプリントアウトができる「気づかれにくい2大疾患チェックシート」や「女性のミカタ」小冊子の配布、プロジェクト参加施設であることを示すステッカーの掲示といった取り組みが進められている。
 こうした流れを説明した大阪府内科医会の正木初美理事は、前記したチェックシートで思い当たる症状(6項目=1つでもマークがあると該当の可能性)を聞き取ると患者満足度が上がるかどうかを探った日臨内のパイロット調査の結果を報告。症状の有無にかかわらず、約9割の患者がポジティブに評価したほか、症状があっても未診断・未治療の事例が骨粗鬆症で65%、過活動膀胱で84%も存在した結果を踏まえ、プロジェクトへの積極的な参加を会場に呼び掛けた。
 さらに自身のクリニックにおけるチェックシート配布を通じて「受付でのチェックシート配布は『親身になっている』ことを伝える上で有効」「忙しいときは実施できない患者もいたが、一度に完璧を目指す必要もない」「手間よりメリットの方が大きい」「患者への説明は、視覚的に分かりやすいボードが有効だった」などの経験則を伝えた。

講演2
「女性におけるヘルシーエイジングと骨粗鬆症」

生命予後の悪化・心血管イベントの増加につながる骨粗鬆症の進展

大阪市立大学大学院医学研究科代謝内分泌病態内科学 講師 今西康雄氏

【大内会】今西康雄氏 (300x204).jpg

椎体骨折を一度起こすと1年以内に20%が再度骨折

 「男性はメタボ、女性はロコモ」―骨粗鬆症・代謝性骨疾患を専攻する大阪市大大学院医学研究科講師の今西康雄氏は講演冒頭、女性が要介護状態に陥る要因の一つとして「骨折・転倒」を挙げ、何よりも初発椎体骨折の予防が重要と訴えた。
 更年期を迎えた50 代女性は閉経後、血中エストロゲン値の低下とともに骨量が減少。これに伴って椎体骨折の発生率が上昇する。一度椎体骨折を起こすと、1年以内に20%が再度椎体骨折を発症。さらに既存椎体骨折のある患者は、ない患者に比べて大腿骨近位部骨折の発生率も高まる。
 臨床骨折の生命予後への影響を、骨折部位別に見てみると、前腕遠位部骨折は生命予後に影響がないものの、大腿骨近位部骨折および椎体骨折がいったん生じると、骨折していない患者と比較し、死亡の相対リスクはそれぞれ6.7 倍、8.6 倍と飛躍的に高まる。また、大腿骨近位部骨密度の低下自体も累積生存率と関連することが示された。
 今西氏は、骨粗鬆症の進展が心血管イベント発生の増加につながることも示した。ある大規模臨床研究においては、骨粗鬆症群は骨減少群と比較し、心血管イベント(冠動脈+脳卒中)も増加したことが示されている。
 さらに今西氏は「骨強度は、骨密度と骨質の2要因からなる」と説明。2型糖尿病や慢性腎臓病(CDK)においては、骨密度から想定されるよりも高い骨折率が報告されていることから骨質の低下が関与していると説明し、「骨粗鬆症=骨密度」と認識されている一般的な概念の修正を促した。
 併せて糖尿病における骨質低下の機序として、高血糖による最終糖化産物(AGEs)産生による骨芽細胞機能抑制や、悪玉架橋の増加を挙げた。
 骨粗鬆症の代表的な薬物療法としてSERM、ビスフォスフォネート、テリパラチド、活性型ビタミンD3などの推奨グレードを紹介。

そして最後に

①2型糖尿病やCKD といった生活習慣病では、骨質の低下を背景とした骨粗鬆性骨折のリスクが増加すること

②血清クレアチニン濃度が正常範囲内を示していても、高齢者においてはeGFR が低下を来していることがあるため、腎保護を念頭に置いた治療が推奨されること

③長期間にわたる骨粗鬆症治療が必要となることにより、骨質改善作用、腎機能保護作用を持ち、顎骨壊死などの副作用のないSERM は、閉経後女性において第一選択薬として検討の価値がある

とまとめた。

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