大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン2月号掲載(2015年)

大阪府内科医会 三府県内科医会合同学術講演会


糖尿病領域における患者中心医療とインフル対策など多彩に論議


 大阪府内科医会(会長・福田正博氏)は11 月29 日、奈良県医師会内科部会ならびに和歌山県医師会内科医会と『三府県内科医会合同学術講演会』を開催した。日常診療に役立つテーマを取り上げる定例講演会、最新の医学情報を伝える特別講演と併せて年1回開かれる同会は、府内にそれぞれの県立医科大出身の実地医家が多いことから旧交を温める場としても機能。今回「今、聞きたい実地臨床に役立つトピックス」と冠して2講演と特別講演1席が行われた。

講演1
QOL を考えた糖尿病治療の位置づけ

日常診療に糖尿病QOL質問表
『DTR-QOL』の活用を提唱


奈良県立医科大学糖尿病学講座 教授 石井 均氏

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 予備軍を含めて全国で2,210 万人いると推計される糖尿病患者について石井氏は、HbA1c や血糖値、低血糖頻度といった従来の指標に加え、QOL(日常生活の質)の面から治療満足度を向上させる意義に言及した。
 急性疾患への対応を基本とする医師にとって糖尿病診療の難しさは、治療期間の長さに集約されるという。30年以上にわたって同じ患者を診た経験を持つ同氏は「病気とともに患者の人生と付き合う」との心構えを強調。放置すると細小血管合併症(網膜症、腎症、神経障害)や動脈硬化性疾患(虚血性心疾患、脳血管障害、閉塞性動脈硬化症)、認知症、歯周病、脂肪肝、がん、骨折など、さまざまなリスクを招くことから、それらの発症と進展を阻止するとともに、治療においてもQOL を損ねるような選択は望ましくないと訴えた。
 血糖コントロールに関しては、2型糖尿病の至適コントロールを検討した大規模臨床研究「熊本スタディ」に基づき、HbA1c 7%未満に保つことで「10 年後、合併症にならないと患者に伝えられるようになった」と評価されている。しかし、治療に際しては、痛みや生活上の制約などマイナス要素が伴うと、食事、運動、経口薬、インスリンのいずれの療法も実行度が下がる。これを踏まえて同氏は、糖尿病患者のQOL を測定する目的で質問表『DTR-QOL』(Diabetes Therapy Related) を開発。2012 年Journal of Medical Economics に発表している。DTR-QOL は、糖尿病治療を4つの領域(①社会活動/日常活動の負担②治療への不安と不満③低血糖④治療満足度)で評価が可能。「患者が感じる糖尿病治療の利益や問題点を数値化できる」「治療法に対する患者の受け入れ度や満足度を図れる」といったメリットがある。
 DTR-QOL で得たスコアから、同氏は「暮らしぶりの主観的評価を反映する指標」として「QOL という尺度」の導入を会場に呼び掛けた。なお、質問表ダウンロード版PDF とiPad 専用無料アプリは、関連サイトより無料でリリースされている。

講演2
成人の新型インフルエンザ診療ガイドライン2014

肺炎リスクグループに
有効なマクロライド系抗菌薬

大阪大学医学部附属病院感染制御部 副部長  関 雅文氏

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 「老人のともしびを消す病気」と呼ばれるインフルエンザの流行シーズンを迎え、呼吸器内科学・感染症学を専門とする関氏から診療の統一見解に位置付けられるガイドラインの内容が解説された。
 対症療法のみだったインフルエンザの治療は、タミフル、リレンザの使用、さらにイナビル、ラピアクタなど長時間作用型抗インフルエンザ薬の開発によって大きく進んだ。また、2009 年に起こった新型インフルエンザのパンデミック以降、重症呼吸不全への対応を含む、より集学的な治療のコンセンサスが世界的に求められるようになった。
 これを背景に2014 年、日本呼吸器学会、日本感染症学会、日本集中治療医学会共同の『成人の新型インフルエンザ診療ガイドライン』が作成された。同氏の関与した呼吸器学会では、より重症度が高い肺炎合併患者への抗インフルエンザ薬の使用指針を担当した。
 生命の危険がある重症、肺炎合併、非肺炎、外来治療の4ランクに分類されたインフルエンザ患者の全てにオセルタミビルリン酸塩(タミフル)内服薬とペラミビル(ラピアクタ)点滴薬の2剤が推奨されているが、発症から治療開始までの期間が開くほど重症化する傾向があるため、肺炎を合併した新型インフルエンザの場合でも、ノイラミニダーゼ阻害薬の早期投与(48 時間以内)が推奨されている。その一方、48 時間以降でも有用な可能性を示唆するデータが出ていることも紹介された。
 肺炎を起こしやすいハイリスクグループは、65 歳以上の高齢者をはじめ、慢性呼吸系疾患(喘息やCOPD)、高血圧単独を除く心血管疾患、慢性腎・肝・血液疾患、糖尿病をはじめとする代謝疾患、妊婦、長期療養施設の入所者、著しい肥満などが挙げられる。同氏は、これらグループに対してマクロライド系抗菌薬の併用を選択肢の一つとして挙げるとともに、特殊なモニターや検査を必要としない敗血症(セプシス)の診断基準を「肺炎など重篤な病態に移行する前段階でその危険性を把握し得る指標として有用」と評価した。

特別講演 
高齢者糖尿病におけるサルコペニアとフレイル

高齢者糖尿病の治療は
日常動作や認知機能に配慮

北播磨総合医療センター病院長 横野浩一氏

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 超高齢社会の到来を背景に疾病構造の変化が顕在化する中、老年医学に取り組む横野氏は、高齢者糖尿病とそれに伴うサルコペニア(筋肉減少症)ならびにフレイル(加齢による虚弱)にスポットを当てた。
 加齢以外の原因がない1次性サルコペニアは、65 歳以上の25%、80 歳以上で50%以上に認められる。同氏は、EWGSOP(欧州のワーキングループ)の提唱するサルコペニアの診断基準(▽歩行速度=≦ 0.8m/s ▽握力=男<30kg;女< 20kg ▽筋肉量=青壮年者の2標準偏差以下)を示した上、日本人に適した簡易基準づくりが進められている現状を伝えた。併せて高齢者糖尿病では、男女ともサルコペニアの頻度が高く、さらに糖尿病の罹病期間の長い症例や血糖コントロールの不良な場合にも同様の傾向が見られると指摘した。
 老化現象の根幹の変化と捉えられるサルコペニアの予防と治療は、身体機能および予後・QOL の改善に向けてレジスタンストレーニングや体重を維持する栄養(タンパク摂取=ロイシン)、薬物(ビタミンD、ホルモン製剤)、慢性疾患の治療などが有効とされた。また、高齢者の薬物療法の留意点として、4S =スモール(少量開始)・スロー(増量緩徐)・ショート(短期間投与)・シンプル(処方の単純化)を挙げた。
 フレイルに関して同氏は「老化に伴う種々の機能低下を基礎とし、種々の健康障害に対する脆弱性が増加してる状態」と説明。特に認知機能の状態を問題視した。
 最後に、J-EDIT(高齢者糖尿病の大規模臨床試験)から得られたエビデンスとして「高齢者を対象にした強化療法は実施が困難であった」「HbA1cは健常な高齢者で6.5 ~ 7.5%を目指すが、虚弱高齢者では高めの7.5 ~8.5%を管理目標とする」「野菜・魚の摂取は、血糖・脂質の管理、生命予後の改善につながる」といったトータルマネジメントが重要と訴えた。
 

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