大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン11月号掲載記事(2014年)

大阪府内科医会 9月定例講演会

顆粒球単球吸着療法(GMAA)の
週2回法(Intensive GMAA)で
向上した潰瘍性大腸炎の寛解導入率


 大阪府内科医会(会長・福田正博氏)は9月24 日、大阪市内で定例学術講演会を開催した。20 ~ 30 代の若年成人に多く発症する潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis;UC)について府下有数の症例数を持つ大阪府済生会中津病院(大阪市北区)の福知 工氏から、多彩な副作用の出現するステロイドを避けた治療の実績と、活動期UC 患者に対する顆粒球単球吸着療法の実効性などが報告された。 (編集部)

講演

「 潰瘍性大腸炎の診断とステロイド回避を目指した
治療~なぜステロイドを使わないのか~」

ステロイド投与前のGMAA実施で
CMV再活性化による増悪も阻止


大阪府済生会中津病院消化器内科 副部長 福知 工氏


ファーストチョイスは
アミノサリチル酸(5-ASA)製剤

 大阪・梅田キタの繁華街に隣接したエリアに構える大阪府済生会中津病院で消化器疾患全般の診断と治療に当たる消化器内科は、外科、放射線科、透析センターと連携し、内視鏡、腹部超音波、腹部血管造影などを用いたより侵襲の少ない効率的な治療に努めている。中でも年間1万8,000 件を超える内視鏡総件数は府下トップ。下痢を訴える患者の炎症を判定する上で大腸内視鏡は、最も有用な検査と位置付けられる。同病院では、前処置として鎮痛・鎮静剤を積極的に使用することで患者に評価され、高い受診件数につながっている。
 慢性持続性の炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎(UC)は、主に下痢・粘血便で発症し、発熱や強い腹痛などを伴い重篤になれば手術を要する。患者数(約13 万4,000 人=平成23 年度特定疾患医療受給者証交付件数)は、過去40 年近くにさかのぼって右肩上がりに推移しており、高齢者(60 歳以上)の発症も増加傾向を示す。
 その内科治療の第1 選択は、アミノサリチル酸(5-ASA)製剤の投与になるが、診断をめぐって福知氏は、UC の症状および内視鏡像と類似する感染性腸炎との鑑別の難しさを強調。UC の確定病理診断が存在しないことも踏まえ、誤診しがちな感染性腸炎の例としてカンピロバクター腸炎、サルモネラ腸炎、腸管出血性大腸炎O-157 腸炎、アメーバ性腸炎の特徴や診断法、治療薬などを挙げ、次の注意点を示した。
 ①病悩期= UC は長く、感染性腸炎は短いことが多い、②病理上での陰窩潰瘍などは感染性腸炎でも出現、③内視鏡での血管透見はUC では消失していることが多く、感染性腸炎では認めることが多い、④感染性腸炎での特徴的な所見の理解、⑤内視鏡的にUC と考えても培養とアメーバ否定が肝要―。
 さらに福知氏は「狭窄した進行大腸癌の代表的症状は便秘だが、下痢を訴えて受診するケースがある。下痢、消化管症状を訴える患者には、積極的に内視鏡を行うべき」と会場に呼びかけた。
 UC の内科治療指針で第1選択薬は5-ASA 製剤とされ、本邦ではサラゾスルファピリジンとその有効成分であるメサラジンを徐放製剤化した『ペンタサ』、メサラジンの大腸のみへのデリバリーシステムを有する『アサコール』の3種類存在する。また、頑固に遠位大腸/ 直腸に残る炎症に対しては坐剤、注腸剤などの5ASA 局所製剤を使う。これら5ASA 製剤を駆使して寛解維持を目指すことが軽症UC における基本的な薬物治療だ。
 それでも寛解に至らない場合、ステロイドの使用が一般的だが、福知氏は「漸減中止の方向で寛解導入されなければ、ステロイド依存/抵抗性の病態に陥り、治りにくくなる上に多彩な副作用が出現する」と指摘。また、UC 難治化の要因となるステロイド投入後のサイトメガロウイルス(Cytomegalovirus;CMV)再活性化を問題視する。

一般的なステロイド療法に替わる
GMAAにスポット

 これに替わるアプローチとして福知氏の勤める同病院消化器内科では、活動期UC 患者に対する寛解導入を目的に顆粒球単球吸着療法(Granulocyte and Monocyte Adsorptive Apheresis;GMAA)の効果に注目。ステロイド投与前のUC に対し、Weekly GMAA(週1回法)から進めたIntensive GMAA(週2回法)を積極的に取り入れ、有意に優れた寛解導入率を挙げている。
 体外循環法により末梢血から顆粒球と単球を吸着除去する医療機器『アダカラム』を使用した直接血液潅流療法GMAA は現在、週2回10session まで保険収載されている。GMAA の作用機序は、『アダカラム』内で活性化した生理的範囲内で顆粒球と単球を選択的に吸着させ、抗炎症性サイトカインの産生能を抑制するものとなっている。
 前記したUC の内科治療指針においてGMAA は、ステロイドの次に置かれている。しかし、福知氏は、UC に対するステロイド非投与のGMAA で週2回法の寛解導入率が1カ月で74.2%であり、週1回法より有意に速やかに寛解導入し得ることを表し、重篤な副作用のない点や高い寛解維持率(6週間後で約90%)、さらには患者の要望も含めて「ステロイドの代替となり得る」との考えをアピールした。
 次に問題となるUC のCMV 感染に関し、同病院の症例から「再活性化は思っているよりずっと早期に起こっている」との知見を得、GMAA がこれに気付かないまま増悪させなかったのではないかという仮説を立てた。その上でCMV 再活性化を最も高感度な粘膜PCR で評価すると、初発を含めたステロイド投与前のUC でも陽性率はすでに29.4%をマークしていた。クローズアップされているステロイド投与前におけるUC のCMV 再活性化について福知氏は「このことを捉えられず、ステロイドを使用し、増悪させた結果ではないか」と推測。一方、GMAA の場合、CMV の陽性・陰性にかかわらず、寛解導入率に差異が見られなかったことから「常にCMV がいると想定してUC 治療を組み立てるべき」と結論した。
 最後にGMAA 不応で重症群のUC について、免疫抑制剤タクロリムス投与の寛解導入率が80%と評価できるため「(副作用はあるが、容易に中止しやすく)手術を考えるようなケースで検討できる」と提起した。
 UC の患者数は、2015 年に15 万人に達すると推計され、長期将来的にはcommon disease にもなり得る可能性がある。近い将来、専門医だけが診察する疾患ではなくなる可能性が高いことも当日の定例学術講演会で併せて伝えられた。

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