大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン3月号掲載記事(2014年)

愛知県内科医会・名古屋市内科医会合同例会

 

日本臨床内科医会常任理事・大阪府内科医会会長

福田正博氏が高齢者糖尿病とSMILE projectの意義を講演

  118日に名古屋で開かれた愛知県内科医会・名古屋市内科医会合同例会で、日本臨床内科医会常任理事(大阪府内科医会会長)の福田正博氏が、かかりつけ医が診療することの多い高齢者糖尿病の特徴や日本糖尿病学会の「熊本宣言」を踏まえて、高齢社会における糖尿病診療の考え方を解説。併せて日本臨床内科医会が展開している糖尿病のより良い血糖管理をめざすSMILE projectの意義、進捗状況などを報告した(編集部)。

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講演 高齢社会における糖尿病診療のあり方―熊本宣言2013を踏まえて―

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老年症候群の悪化には高血糖だけでなく低血糖も関連

 高齢糖尿病患者が急増している。厚労省調査では60歳以上が糖尿病全体の61%を占めているが、臨床内科医の糖尿病患者ではさらにその割合は上がる。大阪府内科医会会員への調査結果では、男性では3分の2が、女性では4分の3が65歳以上であり、福田正博氏は「われわれが診る糖尿病患者はイコール高齢者と言っても過言ではない」と実態を示した。

 続けて同氏は、高齢者糖尿病では「大血管、細小血管の障害以外に、腎臓、心臓、肺、脳神経などの生理機能低下を念頭に置かなければならない」として、「このような老年症候群があると糖尿病合併症や血糖値が悪化し、逆に糖尿病合併症や高血糖があると老年症候群が悪化する関係にある」と述べた。

 具体的には、うつ、認知症、骨粗鬆症を基盤とした転倒・骨折、が糖尿病との関連が指摘される。同氏は、耐糖能障害と認知症、糖尿病とリスクなどの関連をデータで示した後、「DPP-4阻害薬を服用している人は、服用していない人に比べて骨折が少ない」というメタアナリス結果を紹介。「DPP-4阻害薬はGIPの分解も抑えるが、GIPは骨増強作用もあるのでその作用が影響していると推測されている」と解説した。

 また、「老年症候群を引き起こすのは高血糖だけでなく、低血糖も問題となる」と指摘。米国の疫学調査では、重症低血糖の経験がある人は、ない人に比べて1.4倍認知症になりやすい。重症低血糖で救急搬送される回数が多いほど認知症を発症しやすいという。また、計算時間と反応時間を血糖値と比較した研究では、正常血糖ではどちらの時間も短いが、高血糖、低血糖ともにどちらの時間も長くなることがわかった。血糖の変動幅が大きいほど認知機能を悪化させる報告もあり、「血糖変動が大きいと酸化ストレスが増大し、動脈硬化を進展させることはわかっていたが、実は認知機能にも悪いことがわかってきた」(福田氏)という。

 

日臨内の低血糖実態調査

15,000例の結果を5月発表予定

  もちろん、低血糖そのものも生命予後に関わる。福田氏は、救急搬送された低血糖昏睡患者の典型的プロフィールは、①高齢者、②腎機能低下例、③SU薬服用例、④必ずしもHbA1cは低くない、⑤誘因・増悪因子は食事摂取不良、低栄養、感染症、肝硬変、がん――だとして、「高齢者の糖尿病診療ではとくに低血糖出現に留意すべき」と警告した。

 低血糖に陥ると、拮抗ホルモンの作用によって様々な症状が表れる。カテコラミンによる交感神経症状は振戦、発汗、ほてりなど、脳ブドウ糖欠乏によるめまい、錯乱、疲労感などが典型的なものであるが、「高齢者では典型的症状が出にくい可能性がある」と福田氏は指摘するとともに、「これまで全国的な調査が行われていなかった高齢糖尿病患者の低血糖出現の実態を明らかにするため、日本臨床内科医会がSMILE projectを行っている」とその意義を強調した。同プロジェクトの低血糖実態アンケート調査では、15,000例が登録されて解析中。結果は5月の日本糖尿病学会で発表される予定だ。

 福田氏は同実態調査の一端を示す例として、自院で登録した183例の分析結果を提示。1カ月間の低血糖出現頻度は、医師(福田氏)がカルテに低血糖と記載したのが11%、患者が低血糖が出たと記載したのが、18%、患者アンケートの症状から推測されたのが32%で、「その差が隠れ低血糖だと思われる」(福田氏)という。また、実際に低血糖を起こした患者の症状として特異的に多かったのは、「冷や汗」「目のちらつき」、「悪心」だったという。

 

高齢者糖尿病に望まれる要素を満足させるDPP-4阻害薬

  一方、「熊本宣言」では、治療目標が変更され、合併症予防HbA1c7.0%未満、治療強化が困難な際には8.0%未満、血糖正常化をめざす際は6.0%未満となった。福田氏はそれぞれの目標設定の根拠を説明した後、「自己管理力の低下した高齢者、腎機能低下例、すでに血管合併症が出ている例などでは8%未満を目標にする方が、リスクが低い」と述べ、「病弱な高齢者では、サルコペニア予防のための運動や栄養、薬剤と使用法、シックデイの対応などを、本人だけでなく家族、介護者に指導することが大切」と提言した。

その上で、高齢者に処方する糖尿病薬に望まれる要素は、①低血糖を起こさない、②シンプルな用量設定、③シンプルな服用方法、④腎機能低下例にも安全に使用できる、⑤動脈硬化に対する予防効果、⑥老年症候群に対する作用―であり、⑤はまだ動物実験データのみだが、「いずれの要素も満足させるのはDPP-4阻害薬だ」と福田氏は説明した。

 福田氏は自身の直近の処方データ分析結果を示し、「65歳以上はDPP4阻害薬の処方率が高く、とくに80歳以上では50%を超える。SU薬はDPP4阻害薬と併用するようになったので、5年前と比較して用量はグリメピリド換算で平均4.08㎎から1.32㎎に減少した」と低血糖を惹起しにくい処方に変化したことを示した。

 最後に、同氏はDPP-4阻害薬がとくに高齢者糖尿病に適した治療薬であることを検証するため日本臨床内科医会が展開している大規模介入研究Smile Studyの概要を紹介。目標の10,000例に対して、20141月現在で約6,500例登録されたため、「引き続き症例登録にご協力を」と呼びかけた。