大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン2月号掲載記事(2014年)

インフルエンザ講演会 (200x150).jpg

インフルエンザ講演会(大阪府内科医会後援)

出席停止期間は年齢に関わらず解熱後2日が妥当

 

―日臨内インフルエンザ研究班副班長・廣津伸夫氏が講演―

廣津 (200x150).jpg

 

 大阪内科医会が後援する「インフルエンザ講演会」(主催・グラクソ・スミスクライン)で125日、日本臨床内科医会(日臨内)インフルエンザ研究班副班長の廣津伸夫氏が「インフルエンザウイルスの感染期間」について講演した。かかりつけ医が、インフルエンザに感染した子どもの治療を行い、登校登園許可証を書くことがあるが、その際に有用な、貴重な研究成果が披露された(編集部)。

 

乳幼児が第一感染者の場合家族内感染する確率が高い

 「インフルエンザで学校や保育園を何日休ませればよいのか、われわれも日頃、頭を悩ませている」。

 講演会の冒頭、座長の福田正博氏(大阪府内科医会会長)は、日本臨床内科医会のインフルエンザ研究が毎年4,0005,000例のデータを集めた世界的に知られた研究であることを紹介するとともに、廣津伸夫氏の感染期間の研究結果に期待を示した。

 それを受けて登壇した廣津氏は、まず、過去12年の自院(神奈川県川崎市)の年齢別のインフルエンザ患者動向を示し、2009年のパンデミック前までは、乳幼児(06歳)、小学生+中高校生、成人の3グループの人数がそれぞれ約3分の1ずつだったが、パンデミック後は年齢構成が変化したと指摘。2009/10シーズンのパンデミックでは乳幼児と小学生+中高校生の割合が大きく増加。その翌シーズンのH1N1pdm09ウイルス感染者は逆に子どもの割合が減少し成人の割合が増加したとして、「2009/10シーズンに子どもたちがほとんど感染したが、変異しなかったので翌年は子どもにはあまり流行しなかった」と説明した。A香港型でも、ウイルスが変異しなかった昨シーズンは子どもが減少して成人が多くなる傾向が見られたという。

 また、川崎市医師会、教育委員会と協力して市内全域のH1N1pdm09の年齢別流行状況を分析してみたところ、行動範囲の広い中学生、次に小学生が地域の流行拡大に大きな影響を与えるが、流行の始まりは成人が職場で感染することであり、家庭内感染を経て、学校でウイルスが拡散することが示された。

 さらに、廣津氏は季節性インフルエンザA型の家族内感染の状況を分析し、次のようにまとめた。

   家族内感染の発生率は8.9

   第1感染者が06歳群の場合家族内感染は12.5%、712歳群の場合は7.7

   同世代の兄弟感染は06歳群の方が712歳群よりも高率で発生する

   発症までの日数は、子ども世代の感染は早く、とくに乳幼児の感染は早い。

 

回復期の子どもから学校内で感染する確率は非常に低い

 一方、インフルエンザを発症した子どもの出席停止期間は、学校保健安全法施行規則(1958年)で「解熱後2日」と定めていたが、2012年に改正されて「発症後5日」が出席停止条件に加えられ、乳幼児は解熱後の停止期間も3日に延長となった。改正理由は、近年、抗インフルエンザ薬治療が普及して、ウイルスが体内に残っていても2日程度で解熱するため、2次感染のリスクを回避するためとされているが、廣津氏は「これは疑問である」と指摘した。

この疑問を解くため、廣津氏は多数の学校と保育園の協力を得て、インフルエンザによる児童、乳幼児欠席状況を分析し、それぞれの潜伏期、発症、発症後感染期をカレンダーにプロットし、誰がクラス内の誰に感染させたかを、1例1例特定していった。

その結果、小学校では外部から感染したがクラスの誰にも感染させてもいない単独罹患者が30%、外部で感染してクラスメートに感染させ流行の発端となった罹患者が16%、病初期のクラスメートから感染した続発罹患者が49%、回復期のクラスメートから感染した続発罹患者が5%だった。保育園では、単独罹患者21%、流行の発端となる罹患者16%、病初期続発罹患者62%、回復期続発罹患者1%だった

この解析結果から、廣津氏は「集団での流行は病初期からの感染が主で、欠席してから再び出席した回復期からの感染は稀であった。その傾向は保育園の方がより強かった」と述べ、「私は保育園で出席停止期間を延長する理由はないと考えている」と結論した。

さらに、抗インフルエンザ薬治療と子どものインフルエンザ感染期間についてウイルス学的な検討も行った。ウイルスの有無をTCID50で判定し、「薬剤投与開始からウイルス消失まで」、「薬剤投与開始から解熱まで」、「解熱からウイルス消失まで」の時間を、年齢別に比較したところ、「薬剤投与開始からウイルス消失まで」と「薬剤投与開始から解熱まで」の時間は、学童より乳幼児の方が長かったが(有意差あり)、「解熱からウイルス消失まで」の時間は有意差が認められなかった。薬剤の種類によって、投与開始から解熱まで、ウイルス消失までの時間は変わったが、解熱してからウイルス消失までの時間は変わらなかった。

この結果について廣津氏は、「乳幼児は免疫が弱く、薬剤に反応しにくいためだと思われる」と推測し、「発症から5日という基準は、治療の成果を反映していないので適切ではない。出席停止期間の判断は、解熱を基準にするのが適切で、従来通りの解熱後2日で良いと思われる。われわれ医師が感染のリスクがなくなったと判断したら出席の許可証を書いても良いだろう」と話した。併せて、「治療では投与から解熱までの時間が短い薬剤の使用が望ましい」と提言した。

抗インフルエンザ薬の無い時代には、熱がいったん下がってからぶり返す2峰性の発熱が多く報告されたが、最近は少なくなっている。しかし、廣津氏は2峰性発熱にも留意することが必要として、解熱時間が早く持続時間の長いザナミビルの有用性に言及した。最後に同氏は治療開始時期が家族内感染の発生に及ぼす影響の調査データを示し、「第1発症者を24時間以内に治療した場合の家族内感染発生率は8.2%だが、48時間を超えると13.5%に跳ね上がる。やはり早期診断・早期治療が非常に重要」と強調した。