大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン3月号(2018.1.22 堺市医師会内科医会学術講演会)

大阪府内科医会【共催】堺市医師会内科医会学術講演会

実地臨床に求められる糖尿病の
       発症予防と悪化させないガイダンス

 大阪府内科医会(会長・福田正博氏)は1月23 日、堺市医師会内科医会との共催で学術講演会を行った。福田氏は、糖尿病治療の最終的な目標について「患者の健康寿命を健康人と同等まで延伸し、QOL(日常生活の質)を保つこと」と規定し、合併症の発症阻止に加え、低血糖や心血管障害、加齢に伴う老年症候群を悪化させないため、個々の病態および状況に適した治療薬の選択が重要と強調した。当日は、血糖コントロールを行う上で有力な手段となっているSGLT2 阻害薬やDPP-4 阻害薬など新規糖尿病治療薬だけでなく、「古くて新しい」メトホルミンと経口血糖降下薬の中で最も古いSU(スルホニル尿素)薬の使い方といった臨床内科の治療の実際が詳説された。

QOL の維持で目指す患者の健康寿命の延伸

実地医家における糖尿病治療戦略
    ~心血管障害を見据えた糖尿病診療~

一般社団法人 大阪府内科医会 会長 ふくだ内科クリニック(大阪市)院長 福田正博氏

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薬剤選択の留意点は
    低血糖など4つのポイント
 
 長期にわたる高血糖は、3大合併症(細小血管症=糖尿病腎症・糖尿病網膜症・糖尿病神経障害)と動脈硬化性疾患(虚血性心疾患、脳血管障害、閉塞性動脈硬化症)につながる。予備軍を含めて約2000 万人もの有病者のQOL を損なう糖尿病の発症予防は、もはや国家的課題と位置づけられている。JR 新大阪駅の近隣で糖尿病を中心とした生活習慣病治療にあたる福田氏のクリニックは、最新かつ最良の診療を目指し、新薬の臨床試験にも取り組む。糖尿病の治療は、薬物療法(インスリン注射/内服薬)のほか、食事療法と運動療法をベースにした日常生活習慣の改善、検査(検尿、体重、血圧、血糖など)を重ね、個人に応じた血糖コントロールを継続していかなければならない。治療の基本となる糖尿病治療薬の選択における留意事項として福田氏は次の4点を挙げた。
 ①低血糖②腎機能、心血管障害、心不全③体重▽増加→メタボ(非高齢者)▽減少→サルコペニア(高齢者)④患者QOL─。
 治療薬が原因となる重症低血糖に関しては、心血管疾患リスクが2倍になることから特に注意を要する。人為的に低血糖を起こすインスリン負荷試験では、まずグルカゴン、そしてエピネフリンやコルチゾール、GH とインスリン拮抗ホルモンの分泌が促されるが、このエピネフリンが心血管イベントの引き金になっていると考えられる。また、最近は凝固系の異常や炎症産物の増加といった低血糖による心血管イベントの発症メカニズムも明らかになってきた。一方、今後、増えることが予想される65 歳以上の糖尿病患者が心不全を発症すると、生存率2割を切るなど予後は極めて良くない。同様に糖尿病患者のeGFR(推定糸球体濾過量)も低いほどCV 死、心筋梗塞、脳卒中など心血管イベントの累積発症率が高まるなど明らかな相関がうかがえる。
 現在、7種類(▽インスリン抵抗性改善系=ビグアナイド薬、チアゾリジン薬▽インスリン分泌促進系=スルホニル尿素薬、グリニド薬、DPP‒4 阻害薬▽糖吸収・排泄調節薬= a‒グルコシダーゼ阻害薬、SGLT‒2 阻害薬)の糖尿病治療薬が標準的に処方されている。第一選択薬とすべき薬剤が決まっていない日本に対し、米国糖尿病学会のガイドラインでは、ビグアナイド系のメトホルミンを起点とし、HbA1c ≧9% を目安に単剤から2剤併用、さらにインスリン注射との併用へと積極的に攻めていく薬物療法がスタンダードになっている。2016 年までメトホルミンに何を加えてもOK とされていたが、現在は心血管障害が有る場合、メトホルミン+ SGLT2阻害薬またはGLP‒1 受容体作動薬が推奨されている。
 最近の知見ではメトホルミンは腸管でも作用し、GLP‒1 の分泌を促進するとともに、膵臓でのGLP‒1受容体の発現も増やすという。インクレチンの働きを助ける役割を備えており、長所として非肥満患者や高齢者でも血糖コントロールを改善できる点が挙げられる。半面、透析を含む腎機能障害、脱水・シックデイ・過度の飲酒、高度の心血管・肺機能・肝機能障害、外科手術前後、高齢者(>75 歳)のケースで乳酸アシドーシスを発症する可能性があるため、注意喚起されている。腎機能とメトホルミンの処方量の調節をめぐっては、eGFR(高齢者ではシスタチンCを推奨)を基準に禁忌なし・使用継続・新たに処方せず減量・処方中止の基準値と注意点(消化器症状=下痢)、症例が示された。
 1950 年代に発売されたSU 薬については「第一選択薬としての役割は終えたと思われる」としながらも「インスリン分泌低下型の多い日本人の糖尿病には今後とも併用薬として有用であろう」と評価した。投与に際しては、特に腎機能の低下した高齢患者およびDPP‒4 阻害薬との併用開始時の低血糖に注意しつつ、シックデイ、体調不良で食事量の不安定な時には休薬することが伝えられた。
 フレンチライラックの花を原料にしたメトホルミンに対し、SGLT2阻害薬は、リンゴの樹皮から同定されたフロリジンから開発されている。腎臓の近位尿細管で糖(グルコース)を再吸収するSGLT2 をブロックする同剤の作用機序とその多面的な効果(過剰濾過の改善による腎保護など)を説明した上で福田氏は、エンパグリフロジンの心臓血管アウトカム試験、カナグリフロジンの心・腎予防効果データを踏まえ、SGLT2 阻害薬服用により、糖と同時にナトリウムの再吸収もブロックし、尿中へ排泄するメカニズムをクローズアップした。

注意したい血糖値が
     大きく乱れるシックデイ

 糖尿病患者は治療中、発熱や下痢、嘔吐をきたし、食欲不振に陥ったりする。この状態をシックデイと呼び、インスリン非依存で血糖コントロールが良好な患者でも著しい高血糖を起こしたり、ケトアシドーシスに陥ったりする。シックデイの間の経口血糖降下薬の使用は、糖尿病診療ガイドライン2016 を参照して中止/減量/変更を判断することが周知された。
 SGLT2 阻害薬の良い適応症例は①肥満またはメタボを合併②現役世代の年齢層/元気な高齢者③糖尿病罹病期間が短い④インスリン分泌能が保たれている⑤糖尿病合併症が軽症⑥腎機能(eGFR>45)が保たれている⑦自分の食事の問題点を把握している⑧時間割引率や性急性の高い(せっかちな性格の)患者⑨薬剤の特性を理解し、シックデイへの対応ができる患者─とまとめられた。逆に①やせ型の糖尿病②虚弱な高齢者③腎機能の低下(eGFR<45)④シックデイの対応ができない⑤常習飲酒者、食生活の改善に無関心⑥極端な糖質制限をしている⑦閉塞性動脈硬化症─といった患者はSGLT2 阻害薬の適応とならない。