大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン9月号(2017.07.26定例学術講演会)

大阪府内科医会 7月定例学術講演会

脳血管障害の鑑別に有用なCT検査と
          脳梗塞早期診断等に適したMRI検査

 大阪府内科医会(会長・福田正博氏)は7月26 日、府医師協同組合本部講堂で定例学術講演会を開催した。加齢などによって起こる脳卒中(脳血管障害=脳梗塞、くも膜下出血、脳出血)の患者数は約118 万人に及び、要介護状態に陥る原因疾患のワーストワンとなっている。発症予測が可能であるため、実地医家はその兆候を見逃さず、早期発見ならびに特定保健指導に努めたい。講演会当日は、画像診断のエキスパートから読影のポイントが理解しやすく説明された。

『見てわかる最新の脳卒中の画像診断 -CT とMRI を中心に-』

血栓溶解療法と血栓回収療法の脳梗塞治療への功績

兵庫医科大学 放射線医学教室 准教授 石藏礼一氏

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3大生活習慣病の一つに挙げられる脳卒中(脳血管障害)は、発症すると生命を脅かし、意識障害や失語、片まひなど深刻な後遺症を残すことが多い。脳血管が詰まる脳梗塞と、血管壁が破れて出血するタイプに大別される。画像診断・IVR(画像下治療)を専門とする兵庫医科大学放射線医学教室准教授の石藏礼一氏は、中枢神経疾患を診断するCT(Computed Tomography =コンピュータ断層撮影)とMRI(MagneticResonance Imaging = 核磁気共鳴画像法)について、脳梗塞/くも膜下出血における診断と治療の実際について取り上げた。
脳梗塞に対する治療は現在、血栓溶解療法に加え、脳血管内カテーテル法による低浸襲治療である血栓回収療法が行われている。脳血栓を溶かす新薬として2005 年に承認されたrt-PA(アルテプラーゼ)を静注する血栓溶解療法は、脳細胞の死滅を防ぐだけでなく、脳細胞自体を回復させる画期的な治療法として普及した。その半面▽発症から4.5 時間以内に治療可能な虚血性脳血管障害患者に行う▽ rt-PA を用いる▽頭部CT またはMRI 検査、一般血液検査、凝固学的検査、心電図検査が施行可能な施設に限るなど日本脳卒中学会が推奨する適正治療指針に従わずに実施すると、致命的な症候性頭蓋内出血を来すリスクが高い。
一方、血栓回収療法には、先端がらせん状になっているワイヤーで血栓を絡めるメルシー(MERCIRetriever)や、専用の再灌流カテーテルに強力な吸引ポンプを用いて血栓を砕きながら回収するペナンブラ(Penumbra system)、ステントリトリーバー(Solitaire FR、Trevo Provue)がある。これらの治療の適応を決定するには、経過時間のみでなく、梗塞の範囲、今後、梗塞となるリスクがある脳の範囲を迅速かつ的確に判定しなくてはならない。
脳梗塞の画像診断の感度は、CTよりMRI が優れているが、兵庫医科大学病院では、CT を先行させているという。その理由について石藏氏は「脳卒中患者の体内金属チェックの必要性はなく、生命維持装置をつけていても検査が可能である。診断についてはくも膜下出血と脳出血が容易に診断可能で、出血性病変を除外して脳梗塞治療にかかれる。また当施設はMRI 装置とCT 装置が同じフロアに設置されていている」とのメリットを挙げた。逆にデメリットは、短時間検査とはいえ治療までの時間が延びてしまう可能性がある。しかし撮像時間が短いCT では治療開始の妨げに大きく影響しないとの報告もある。
急性期脳梗塞のEarly sign として次の所見が該当する。
中大脳動脈の血栓/島の皮質の不明瞭化/前頭葉・頭頂葉の皮質髄質の不明瞭化/脳溝の消失傾向/皮質の肥厚。
造影剤を用いない単純CT の場合、Early sign はしばしば指摘困難だが、造影CT を用いれば閉塞した血管部位が鮮明に読み取れる。以前のCT は輪切りにした水平断しか撮影できなかったが、スパイラル(ヘリカル)撮影技術や多列検知器搭載CT によってMRI のように冠状断、矢状断も再構成可能になった。多方向からの観察も診断能向上に有用である。さらに脳血流を評価する造影剤を用いたCT 灌流画像では、毛細血管レベルの組織血流を定量的あるいは半定量的に把握できる。脳血流量、脳血流速、平均通過時間、血流のピークまでの時間などがカラーマップや数値で表示できる。
石藏氏は、主幹動脈の閉塞による側副血行の有無や側副血行の程度などのCT 所見について症例を提示しながら解説した。
核磁気共鳴現象を利用したMRIは、磁場と電波で体内のH 原子を画像化する手法である。基本画像はT1 強調像、T2 強調像、FLAIR像、拡散強調像(DWI)、磁化率強調像(SWI)である。T1 強調像は、脂肪を高信号、水を低信号、多くの病変を低信号に描出する。T2 強調画像は、水を高信号、脂肪も高信号、多くの病変を高信号に描出する。FLAIR 像は、脳室液などの自由水の信号を抑制したT2 強調画像であり、水を低信号、多くの病変を高信号に描出する。くも膜下出血はFLAIR 像で観察しやすい。
拡散強調像は、水分子のブラウン運動を利用してコントラストを得る画像である。急性期脳梗塞は細胞内に水分子が閉じ込められる結果、高信号となる。CT、MRI の中で、急性期脳梗塞に最も感度が高いのは拡散強調画像である。
磁化率強調像は、磁化率の違い、すなわち金属などによる磁場の乱れに敏感な画像である。具体的には血栓、出血や石灰化の描出能に優れている。また、静脈のデオキシヘモグロビンを描出する。このため、磁化率強調像は脳梗塞において、中大脳動脈など主幹動脈の塞栓自体と低還流領域を描出することができる。なお、脳灌流が低下した部位ではFLAIR でも血管が高信号として描出されるため、診断の一助となる。
MRI で灌流低下域をはかる方法としては、他に灌流画像(造影/非造影)がある。

MRIの検査時の注意事項

MRI 装置は巨大な磁石であり、臨床現場では1.5T(単位=テスラ)と3T の機種が稼働している。仰臥位になった患者が入るドーナツ状のドームの奥行きはおおよそ1.7m のサイズ。作動していない間も常に電源が入っており、相当な重量物でも吸い寄せる。講演会では、車いすやストレッチャー、酸素ボンベなどが開口部に吸着されたケースが提示された。
病院では安全な検査のため、患者のアクセサリー、スマホなど金属類をはじめ、つぼに貼って使う家庭用磁気治療器や使い捨てカイロ、麻薬などの貼付薬、付け爪・マスカラ、白髪隠しスプレーなどに至るまで持ち込まないよう細かく患者に指導しているが「重要なことは医療従事者への注意喚起」と石藏氏は語った。
さらに石藏氏は、くも膜下出血の原因の一つである脳動脈瘤の治療として開頭手術(クリッピング)、カテーテルを通して行うコイル塞栓あるいはバルーンカテーテルアシスト、ステントアシストといった最新の脳血管内治療の実際、くも膜下出血のCT として少量のくも膜下出血で見られる、両側側脳室下角が拡張してニコニコした笑顔のように見えるniko ‐ niko ‐ sign など話題を提供した。またCT でくも膜下出血と鑑別を要する疾患、MRI FLAIR像でのくも膜下出血の診断とそれと類似する鑑別疾患、3TMR 装置による脳ドックと動脈瘤の診断について症例を提示して解説を行った。
講演冒頭とラストでは「愛するひとを救うため」に脳卒中の初期症状(顔がゆがむ、ろれつがまわらない、立てない、3時間以内など)を観察し、早期に対応することを呼び掛けた。併せて石藏氏が監修した医学書『一目でわかる!脳のMRI 正常解剖と機能』(学研メディカル秀潤社)が木村拓哉主演ドラマの1シーンに登場したことをアピールし、会場を沸かせた。