大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン8月号(2017.06.17第12回定例総会)

大阪府内科医会 第12回定例総会 記念講演会

超高齢社会における臨床内科医は
      かかりつけ医の役割も求められる

 大阪府内科医会(会長:福田正博氏)は6月17 日、第12 回定例総会ならびに記念講演会をホテルニューオータニ大阪で開催した。総会では、10 月8~9日に第31 回日本臨床内科医学会が同ホテルを会場に開催されることを周知。多数の参加と協力が呼び掛けられた。記念講演会では、話題提供として外山学氏(大阪府内科医会副会長)が在宅医療における臨床内科医の役割を述べた他、高齢者生活習慣病と認知症をめぐる講演2題が行われた。

 

話題提供「2025 年を見据えた在宅医療、われわれ臨床内科医に求められる役割と課題とは?」

望まれる看取りの際の意思決定支援

大阪府内科医会 副会長 外山 学氏

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 団塊の世代が後期高齢者となる2025 年をめどに構築が進められている地域包括ケアシステムをめぐり、外山氏は「全国共通のシステムではなく、実態はネットワーク。一律のモデルはない」とする日本福祉大の二木立相談役(前学長)の解説を紹介した。そして、これからの臨床内科医に求められることとして、

①死に至る代表的3パターン(▽がん=期間限定である程度の予測が可能、緩和ケアの進歩が著しい▽慢性心不全・呼吸不全=急変・増悪時の対応と急性期病院との連携が重要▽神経筋難病/認知症・老衰=長期管理やコミュニケーション技術、機を逃さない準備が必要)各々に精通すること、②サービス付き高齢者向け住宅など高齢者集合住宅における多職種連携に習熟すること③不適切な在宅医療提供から、地域を守る視点を持つこと④急変時や人生の最終段階に備えた意思決定支援─を挙げた。

 

講演1 「高齢者生活習慣病管理におけるフレイル・サルコペニアの重要性」

フレイルの早期発見・治療で延ばせる健康寿命

大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学 講師 杉本 研氏

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 超高齢社会を背景に医療費の軽減が危急の課題となる中、介護予防は、結果的に最も大きな抑制効果を持つことになる。講演冒頭、大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学講師の杉本研氏は「生活機能評価」を起点とする介護予防マニュアルを示し、加齢および心身機能低下に伴う危険な老化のサインの早期発見と適切な介入を呼び掛けた。
 阪大医学部附属病院老年・高血圧内科の入院高齢者調査によると、75 歳あたりから下肢筋力などが落ち始め、転倒リスクや自立歩行困難の割合が高まる。フレイルの定義について杉本氏は「自立しているが健康障害を生じやすい、身体または精神機能がある程度低下した状態」とし、要介護に至るまでに生理学的予備力が段階的に衰えていく過程を指すと説明した。
 2000 年以降、論文化されている65歳以上の日本人一般集団を対象にしたメタ解析(n = 1529)の結果、全体で約8%がフレイルに陥っており、加齢とともにその頻度は増加する。筋量・筋力が落ちるサルコペニア、骨密度の低下を含めて運動器障害を起こすロコモティブシンドロームに対し、フレイルはさらに広い範囲に及ぶ。フレイルの特徴として杉本氏は「可逆的」であることを指摘し、高齢者糖尿病の血糖コントロール、処方適正化、高血圧の降圧治療など早期治療と同時に「痩せた/活動をやめた/しんどそう/つまずいた・転んだ/薬が増えた」といった兆候を周囲が見逃さないように訴えた。特に処方適正化に関しては、SU薬やビグアナイド、SGLT2 阻害薬など高齢者に望ましくない影響を及ぼしがちな薬剤を挙げ、慎重投与を促すと同時に、ビグアナイドやSGLT2 阻害薬については、高齢者にメリットとなる側面があることも説明した。
 また、フレイルの予防と治療として以下の項目を推奨した。
 【予防】▽運動=有酸素/レジスタンストレーニング(週2 回、60 分/回)▽高タンパク質補助栄養食品=カゼイン、ロイシン(タンパク質摂取量が少ないと経年的な筋量低下が大きい)▽その他期待される治療(ビタミンD、テストステロン、ミオスタチン阻害薬など)については、エビデンスが十分ではなく未確立――。

 

講演2 「非専門医でもここまで出来る~認知症に対する当クリニックの取り組み」

実地医家に求められる認知機能低下へのアプローチ

いせ山川クリニック 院長 山川伸隆氏

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認知症の患者数は2025年に700万人を超えると推計されている。これは、65歳以上の5 人に1 人に当たる。高齢者の自立生活を支える地域包括ケアシスムの構築が進められているが、具体に欠け、現場の混乱を招く結果となっている。三重県伊勢市で認知症サポート医として物忘れ外来などに取り組む、いせ山川クリニック院長の山川伸隆氏は「患者・家族の声をいかに集めるかが重要」と訴え、行動観察シート(AOS = Action ObservationSheet)による患者情報の収集と診療の実際について詳しく報告した。
 「認知症は病名でなく症状名」と強調する山川氏は、臨床内科医に対し、まず原因を探り、早期に最適な治療法を施すことを求める。認知症の重症度は、年齢相応の物忘れから言語機能の著しい低下や歩行・着座・笑う能力の喪失、混迷および意識不明などを伴う高度のアルツハイマー型認知症まで7段階に分けられる。境界状態から軽度を経て中程度へと移るチェックポイントは「自発的な入浴」だという。
 薬物投与に関して山川氏は「病期別に検討すべき治療薬が効果より使い慣れているかどうかで選択されている」ことを指摘。使用頻度の高いドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンそれぞれについて第一選択に適しているケース、処方をめぐって注意すべきタイプを説明した。うちパッチ剤のリバスチグミンは脱落率が高いため、乾燥肌の認知症患者には十分量のヘパリン類似物質含有クリームや軟こうを塗布するなど保湿してからの貼付を呼び掛けた。
 現在、多職種連携で患者宅を訪問し、情報把握に努める『認知症初期集中支援チーム』が進められている。山川氏の地元、三重県は立ち上げが早く、全国でもトップクラスになっている。それでも行政と医師会の区割りの違いや専門医の不在、人間関係の希薄さなど課題は多い。患者情報の収集も実際に見ないと、着衣失行や入浴拒否、徘徊といった問題行動があっても背景にそれなりの理由があったりするので"機転"が求められる。
 山川氏のクリニックでは、診察室での患者だけでなく、介護する家族からも情報収集するため、48 項目の質問で構成されたAOS を使用している。AOS は患者の「リアルな生活状況」ことを把握するのに有効なツールであり、改訂長谷川式簡易知能評価スケールなどほかのスクリーニングとの総合的な判定でBPSD(認知症によって引き起こされる行動・心理症状)を介護者とともに理解(共通理解)し、対応することに努めている。講演を通じて山川氏は、認知症の早期発見を早期絶望とせず、早期理解につなぐひと工夫を訴求した。