大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン4月号(2017.2.22定例学術講演会)

平均寿命の延長により増加する骨粗鬆症性骨折

大阪府内科医会(会長・福田正博氏)は2月22 日、大阪市内で定例学術講演会を開催した。世界トップクラスの寿命延長という背景を反映し骨粗鬆症性骨折は増えている。脊椎椎体骨折は、実地内科の日常診療でもよく見られる症例だが、多発的に生じる前に予防しないと歩行に障害を来すほど重度の円えん背ばいに至ることも少なくない。当日の講演では、骨粗鬆症性椎体骨折後の問題点と治療の実際に加え、腰部脊柱管狭窄症のガイドラインおよび症例が取り上げられた。

『骨粗鬆症性椎体骨折による問題点と治療』

実地医家に求められる
検診による発見と予防

近畿大学医学部整形外科学教室 講師 池田光正氏

4月号【大内会】近畿大学整形外科 池田光正氏.JPG

日常診療で遭遇する
    高齢者に多い脆弱骨折

介護を必要とせずに過ごせる健康寿命(男性70.4 歳/女性73.6 歳)と平均寿命( 男性79.5 歳/ 女性80.3 歳)の乖離が約10 年ある。一般的に圧迫骨折と呼ばれる骨粗鬆症性椎体骨折を発症した患者のQOLの低下も指摘されている。脊椎脊髄外科を専門とする近畿大学医学部整形外科学教室の池田光正氏は講演冒頭、尻もちや椅子への着席など軽い衝撃で起こる脆弱骨折から説明した。
骨粗鬆症に伴う低骨量を原因とする脆弱骨折は、①椎体②大腿骨近位部③上腕骨近位部④前腕遠位部⑤骨盤⑥下腿骨あるいは肋骨がよく知られている。「どこかに骨粗鬆症性脆弱骨折があれば、部位を問わず骨折の発生するリスクは2倍になる。さらに椎体骨折に限定すると、別の椎体骨折の起きる割合は3 ~ 4 倍、大腿骨近位部骨折は3 ~ 5 倍に高まる」という。健康寿命の延伸によって活動するシニア層が増えた結果、70 歳を境に顕在化する骨粗鬆症性骨折もクローズアップされてきた形だ。椎体が1つ折れると、1 年以内に次の骨折が発生しやすくなるとの報告(JAMA 2001)を示した池田氏は「骨粗鬆症性骨折の中でも比較的若年に経験する椎体骨折を60 歳の段階で予防することにより、その後の骨折を阻める」と強調した。
高齢者の椎体骨折が日常の診療でよく見かける"common disease"となっている理由として「しばらくすれば痛みがなくなる」「痛みが消失すると、かかりつけ医が問題視しない」「骨粗鬆症の投薬を患者が希望しない」といった要素が挙げられる。しかし、骨折後の治療を放置していると椎体骨折が重なり、崩れたバランスを保つため重心線が徐々に前方へ移動する。これを代償するために腰を反らせる(腰椎前弯をつける)ことで姿勢を矯正しようとする。しかし、腰椎での代償が困難になると骨盤を後傾することで代償するが、こうなると当然、転倒しやすくなり、並行して心・肺機能の低下や胃部圧迫、腹部膨満、横隔膜ヘルニア、逆流性食道炎、便秘といった諸問題も出るなど健康寿命に影響する。
脊椎は、頭部側から順に頸椎(7椎= C1 ~ C7)、胸椎(12 椎= T1~ T12)、腰椎( 5 椎= L1 ~ L5)と椎骨が連結しており、L5 の下に仙骨、尾骨がある。
側面から見ると、頸椎と腰椎は前弯、胸椎は後弯したS 字状のカーブを描いている。脊椎の診療は立位全脊椎レントゲンを撮影し、側面像でC7 椎体の正中から垂線を下ろし、仙骨後上角からの距離によって判断する。Sagittal vertical axis(SVA)が40mm までが良好な姿勢とされる。円背が進むと40mm よりも長くなり、つえや手押し車に頼らないと歩きにくくなる。根本的には脊椎骨折の予防に尽きるが、併せて骨粗鬆症の治療も積極的に行う必要がある。有効成分が骨組織中に長期間とどまり、骨吸収を抑制するビスホスホネート製剤(BP 製剤)が発売されて以降、臨床医の関心が高まっている。日本独自の指標YAM(骨密度若年成人平均値)で診断する。YAM 値は20 ~ 44 歳の健康な女性の骨密度を100%とし、70%以下だと骨粗鬆症とされる。DXA 法と呼ばれるX 線を使った検査で腰椎、大腿骨頸部の骨密度を測定する。高齢者等腰椎骨が変形している場合は、大腿骨頸部を計測する。DXAがないため骨密度評価をできなくても骨粗鬆症性骨折があれば治療開始となる。あるいは、危険因子の数から骨折が起こる確率を計算できる評価ツール『FRAX』の診断結果も骨粗鬆症の薬物治療を始める判定基準の1 つとなり得ると、池田氏は説明した。
骨粗鬆症の予防は▽1次=健康な人を病気から守る▽2次=検診でリスクの高い人や病初期の人を発見し、対策を行う▽3次=治療によって社会復帰させる─の3つのステージで取り組まれる。
椎体骨折の治療は従来、コルセットやギプスを装着し、安静にする保存的療法が主流だった。現在、場合によっては、皮膚から椎体に針を刺し、風船で椎体内の空洞を再形成し骨セメントを注入することで椎体を内部から固定する低侵襲な術式が行われている。

SERMに認められる
    骨粗鬆症性椎体骨折の予防効果

薬物治療について池田氏は「実地医家ではBP 製剤よりも骨吸収抑制剤SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)が多く処方されている」と指摘。エビデンスからはBP 製剤が効果で勝るが、顎骨壊死あるいは大腿骨否定形的骨折を回避したい実地医家が多いためと考えられる。
そこで、原発性骨粗鬆症の女性30 人/ 平均年齢71.7 歳、対象患者【▽年齢60 歳以上79 歳まで▽DXA 法で腰椎BMD = YAM80 ~71%(骨量減少領域)既存骨折(-)▽ YAM70 ~ 65%(骨粗鬆症領域)既存骨折(-)の患者群】に対して、SERM(バゼドキシフェン)を3年以上服用された患者の結果を報告した。「3年間における骨折発生0例」「投与前の腰椎YAM70%以上17 名は1 名のみ70%を下回ったが16 名で維持」「YAM60%以上かつ椎体骨折(-)あるいは比較的若年(60歳台)骨量減少領域(80%未満)」と述べ、「骨粗鬆症性椎体骨折予防にSERM は一定の効果が期待できる」と結論した。
また、骨代謝回転を評価する指標となる骨代謝マーカーに関しても言及。骨吸収マーカーと骨形成マーカーからなる骨代謝マーカーの測定意義について日本骨代謝学会は、①治療の必要性に対する患者の理解をさらに高めたい②薬物治療を予定している③治療薬の選択④骨粗鬆症の病態等を評価する─場合に役立つとガイドラインに示している。これを踏まえて池田氏は、新しい治療薬の上市や骨代謝マーカーの臨床応用によって骨粗鬆症の治療効果が評価しやすくなっているとアピールした。
腰部脊柱管狭窄症の診断をめぐっては、肥厚した黄色靭帯や椎間関節の変性により狭窄起こることを解説した。また腰椎椎間板ヘルニア、脊椎分離症等の病態をスライドで図示し、狭窄症との異なりを示した。腰部脊柱管狭窄症には明確な診断基準がないことと、複数の疾患が共通した一群の症候を呈する症候群であることを解説。臨床症状として下肢の痛み(神経根型)、しびれ(馬尾型)、痛み・しびれ(混合型)があり、馬ば尾び性間欠跛行が出現する特徴が概説された。併せて診察手技として坐骨神経痛症状の程度を知るSLR テスト(痛みが強いと下肢拳上が困難になる)をイラストで説明した。神経障害性疼痛等に処方される消炎鎮痛剤プレガバリンの処方については「副作用のふらつきも考慮し少量の50mg から徐々に増量し150mg ぐらいまでで、300mg 以上では効果よりも副作用が強い」と症状に合わせて増減することと述べ、めまい、ふらつきと体重増加の副作用への注意が呼び掛けられた。
最後に池田氏は、近畿大学医学部附属病院に導入されたハイブリッド手術室を紹介。ナビゲーション下で頸椎から腰椎までの椎体に、安全にスクリューを挿入する最新の技術がアナウンスされた。

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