大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン1月号(H28.11.19三府県内科医会合同学術講演会)

三府県(大阪・奈良・和歌山)内科医会合同学術講演会

高齢者診療めぐる3疾病
呼吸器感染症・ロコモ・糖尿病

大阪府内科医会(会長・福田正博氏)、奈良県医師会内科部会(会長・山田宏治氏)、和歌山県医師会内科医会(会長・西谷博氏)による「三府県内科医会合同学術講演会」が11 月19 日、大阪市内のホテルで開催された。府内にそれぞれの県立医科大出身の実地医家が多いことから年1回、共催を重ねている。今回は「今、聞きたい内科医に役立つトピックス」をテーマに高齢者診療をめぐる教育講演2題と特別講演が行われた。

教育講演Ⅰ 「呼吸器感染症・インフルエンザの最近の動向〜予防や耐性菌対策の考え方も含めて〜」

感染制御の両輪成す
抗菌薬適正使用と耐性菌伝播抑制

東北医科薬科大学病院 感染症内科・感染制御部/病院教授 関 雅文氏

【東北医科薬科大学病院】関雅文氏.JPG


感染症学を専門とする関雅文氏は冒頭、感染制御のポイントとして「抗菌薬の適正使用と耐性菌伝播の抑制」を挙げるとともに、2016 年4月に発表された「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2016 ─ 2020)」(国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議)の内容を紹介した。
薬剤耐性に関する国民への啓発や専門職への教育、サーベイランスとモニタリング、薬剤耐性微生物の拡大阻止、黄色腫を退縮させる。プロブコールは、コレステロールに乏しい小さなHDL 粒子を作らせ、RCT を賦活させる。そのため、HDL-C が低下するものの、黄色腫や動脈硬化は抑制される。脂質異常症治療をめぐって山下氏は「粥状動脈硬化を退縮させるためにはLDL-C 低下のみならず、HDL機能やRCT の活性化が重要」と強調。また、臨床医としての立場から「プロブコールとスタチンの合剤をつくってほしい」との要望を口にした。医療・畜水産の分野における抗微生物薬の適正使用、研究開発・創薬、国際協力─を骨子とする同プランは、2020 年までにヒトに対する抗菌薬使用量(1000 人当たり1日使用量)を全体で33%減(経口セファロスポリン、フルオロキノロン、マクロライド系薬50%減など=対2013 年比)、肺炎球菌のペニシリン耐性率を15%以下(2014 年= 48%)に引き下げるなどの指標を掲げている。これを達成するため、感染制御チームならびに抗菌薬適正使用支援チームからなる独立した組織を構築し、各組織に所属する医師・薬剤師・看護師・臨床検査技師らが連携して「チーム医療」を推進することが求められている。
インフルエンザワクチンは昨シーズンから4価ワクチンが使えるようになり、A 型に次いで流行性の高いB 型のカバーが強化された。半面、同ワクチンに関しては、脂質異常症治療薬がワクチン反応を減弱させると指摘されており、最新のスタチンほど効果に影響し、特にH3N2 / B 型で顕著といわれる。また関氏は、COPD の吸入ステロイドによる感染リスクや抗インフルエンザ薬の予防投与(予防効果▽「ラニナミビル」初回投与後10 日間▽「オセルタミビル」「ザナミビル」連続して服用している期間のみ)などのトピックスを解説。併せて日本呼吸器学会ウェブサイトでインフルエンザの重症・肺炎サーベイランスの結果が実地医家にフィードバックされていることを周知。高齢者で肺炎を合併して重症化するケースが増えている現状や施設内感染について警鐘を鳴らした。


教育講演Ⅱ「 ロコモティブシンドローム〜新しいテープ剤への期待〜」

実地医家に望まれるロコモ度
テストやロコモ予防アドバイス

とちぎリハビリテーションセンター 所長・病院長 星野雄一氏

【とちぎリハビリテーションセンター】星野雄一氏.JPG

超高齢社会を背景に日本整形外科学会は平成19(2007)年、骨・関節・軟骨・椎間板・筋肉など運動器の障害によって移動機能が低下した状態を指す疾患として「運動器不安定症」を創設した。翌平成20(2008)年「ロコモティブシンドローム」(運動器症候群)という、より広い概念を提唱した。この2つの動きに関わり、治療と啓発活動に当たってきた星野雄一氏は、こうした経緯の他、ロコモに対する診断と対策、新しい外用テープ剤の評価について概説した。
予防意識の向上に努める同学会は、ロコモの認知度を47.3 %( 平成28(2016)年3月)から平成34(2022)年までに80%まで引き上げる目標値を設定している。さらに平成27(2015)年5月、重症度の目安となるロコモ度1(移動機能低下が始まっている)とロコモ度2(同機能低下が進行している)の基準値を公表した。
併せてロコモを防ぐロコトレ(ロコモトレーニング)として有効な片脚立ち、スクワットが紹介された。この判定方法や具体的な運動、望ましい食生活など詳細は『ロコモ チャレンジ!』ウェブサイト(検索「ロコモチャレンジ」)で参照できる。
最後に星野氏は、氏が開発に関与した外用貼付剤『ロコアテープ』について、NSAIDs の高い経皮吸収率(44~ 73%)や光過敏症を起こさない特性、良好な臨床成績を基に「第三世代に当たる」と述べた。「高齢者に多い変形性関節症に対する手段として期待できる」と強調した。
■ ロコモ度1・ロコモ度2の基準値
ロコモ度1 ▽ 立ち上がりテスト=40cm の台から片脚で立ち上がれない▽2ステップテスト=大股で2歩進んだ2ステップ値(2歩幅÷身長)が1.3 未満▽ロコモ25 =(体の痛み・動作などの25 項目チェック)7点以上。ロコモ度2▽立ち上がり=両下肢で20cm の台から立ち上がれない▽2ステップ値= 1.1 未満▽ロコモ25 = 16点以上。


特別講演 「最適な2型糖尿病食事療法を目指して」

糖尿病患者に及ぼす
低炭水化物食の効果検証

京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・代謝内科学教授 福井道明氏

【京都府立医科大学大学院】福井道明氏.JPG

新規作用機序を持つ2型糖尿病治療薬として注目を集めるSGLT2 阻害薬は糖質制限と同じ意味合いで捉えられるか─。日本糖尿病学会の『糖尿病食事療法のための食品交換表(第7版)』のまとめに携わった福井道明氏は、極めて興味深い切り口で低炭水化物食と糖尿病治療の実際について報告した。
同療法のバイブルとなっている食品交換表に基づき、同学会は、適正なエネルギー量および栄養バランスなどを前提に合併症の発症や進展の抑制を図れる手法としてエネルギー調整を推奨。炭水化物の摂取比率を50 ~ 60%としている。これに対し、同比率を30 ~ 40%台に抑えた低炭水化物食が糖尿病食事療法のオプションとしてクローズアップされている。このメリットについて福井氏は、体重減少効果、食後高血糖や中性脂肪の低下、内臓脂肪の減少に伴うインスリン抵抗性の改善などを挙げた。
半面、タンパク質摂取過多は糖尿病腎症、脂質摂取過多(特に飽和脂肪酸)は動脈硬化、筋肉異化はサルコペニアを来す可能性がある。心血管イベントや死亡リスクに影響するため、炭水化物を減らす際には何で補うか、またその長期的な効果も含めて考えなければならない。糖質分解酵素の阻害、腸でのブドウ糖吸収抑制、グルコーゲン合成促進といった作用によって耐糖能を改善するプシコースなど希少糖は、日常的に摂取すると膵β細胞が保護され、糖尿病予防に役立つと期待されている。
前記したSGLT2 阻害薬と低炭水化物食との類似点について福井氏は、かくれ肥満や腎機能の悪くないケースなどへの適応を挙げる一方、糖質制限食患者に対する野菜の十分な摂取、腸内細菌叢の変化に着目することを呼び掛けた。
これに関して腸のバリア機能を保ち、生体恒常性機能を高める短鎖脂肪酸(酪酸・酢酸・プロピオン酸)を増加させるため、食物繊維の十分な摂取を推奨。併せてサルコペニア予防にレジスタンス運動やスロートレーニングが有用と強調した。

三府県内科医会合同学術講演会.JPG