大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン12月号掲載【H28.10.15第19回推薦医部会講演会】

大阪府内科医会第19回推薦医部会講演会

薬物療法めぐる医療アプローチと「健康寿命の延伸」

大阪府内科医会(会長・福田正博氏)は10 月15 日、第19回推薦医部会講演会を開催した。来年秋に主催する日本臨床内科医学会と同様、大内会にとって「推薦医」は、実地医家のモチベーションを高める上で何よりの顕彰制度となる。当日は、奨励賞表彰式ならびに部会講演「死ぬこと、生きること~かかりつけ医ができること」(大阪府医師会理事・矢野隆子氏)のほか、大内会々員を対象に行われた「高TG 血症の診療実態調査」の結果も報告された。本稿では、特別講演と2題の一般講演を取り上げる。(編集部)

特別講演 「粥状動脈硬化の退縮を目指した脂質異常症治療の新しい潮流」

進む脂質異常症における薬物療法と臨床効果

地方独立行政法人 りんくう総合医療センター病院長
大阪大学大学院医学系研究科 総合地域医療学寄附講座・循環器内科学 特任教授 山下静也氏りんくう総合医療センター病院長 山下静也院長.JPG

循環器脂質・動脈硬化の成因研究や肥満症の臨床などに当たる山下静也氏は、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のリスクを減少させる『ACC/AHAガイドライン2013』の評価、家族性高コレステロール血症(FH)の診断、今年承認された新規の脂質異常症治療薬およびコレステロール逆転送系(RCT)の活性化による動脈硬化退縮療法などを詳説した。
ACC/AHA ガイドラインは、冠動脈疾患をもたらす最大の危険因子・LDL-C(悪玉コレステロール)の管理目標値設定を廃止(Target to Treat)し、リスクの高い患者に中強度ないし高強度スタチンのみを使用(Fire and Forget)する指針を打ち出して物議を醸した。日本動脈硬化学会では「目標値を定めた方が治療しやすく、多くの実地医家もその目安を求めている。われわれの推奨する診断・治療指針に修正・変更が必要との認識には至っていない」(要旨)との見解を示している。
冠動脈疾患既往患者は、医学的な管理を受けていても年間8%もの確率で心血管イベントを発症する。このことから脂質異常症治療の目的は、粥状動脈硬化に起因する心血管イベントの初発を抑える1次予防と、既往者の再発を防ぐ2次予防に集約される。最近では、LDL-C を60 ~ 70%低下させるPCSK 9阻害薬も上市され、FH やHMG-CoA 還元酵素阻害薬(スタチン)使用中のハイリスク冠動脈疾患既往者に対する有用性が明らかになりつつある。このLDL-C の目標値を下げるべきかどうかについて山下氏は「まずは2次予防の目標値100mg/dL 未満を達成すべき」と訴えた。
脂質異常症の診断は、FH など遺伝性の原発性高脂血症か、疾患や薬物投与に起因する続発性(2次性)高脂血症かを見極める。▽高LDL-C 血症▽腱黄色腫、アキレス腱の肥厚、皮膚結節性黄色腫▽ FH あるいは早発性冠動脈疾患の家族歴─のうち2項目以上が当てはまればFH と診断する。その際、山下氏は「家系図を書いてもらい、併せて家族も調べることが望ましい」と啓発した。
現在、HDL の多面的な抗動脈硬化作用が注目される一方、酸化ストレスや炎症などさまざまな原因により、善玉HDL が悪玉HDL に変化することも明らかになった。HDL-C を上昇させることでLDL-C を低下する狙いで開発が進められていたCETP(コレステリルエステル転送蛋白)阻害薬に対し、日本動脈硬化学会理事長を務める山下氏らは「HDL-C の量よりもその質と機能が重要」との主張に基づいて反対を表明。結果的にCETP 阻害薬は失敗に終わった。
一方、強い抗酸化作用を持つ脂質異常症治療薬プロブコールは、CETP 活性増加によりHDL-C を低下させるが、動脈硬化や黄色腫を退縮させる。プロブコールは、コレステロールに乏しい小さなHDL 粒子を作らせ、RCT を賦活させる。そのため、HDL-C が低下するものの、黄色腫や動脈硬化は抑制される。脂質異常症治療をめぐって山下氏は「粥状動脈硬化を退縮させるためにはLDL-C 低下のみならず、HDL機能やRCT の活性化が重要」と強調。また、臨床医としての立場から「プロブコールとスタチンの合剤をつくってほしい」との要望を口にした。

講演Ⅰ「 脂質検査情報提供の在り方を考える~近畿大学における薬剤師と臨床検査技師の連携~」

再認識したい医薬品の適正使用に
つながる脂質代謝検査の活用

近畿大学医学部附属病院 薬剤部 薬局長 森嶋祥之氏

近畿大学医学部附属病院薬剤部 森嶋祥之薬局長.JPG

多職種連携で患者を支える病棟のチーム医療において医薬品の適正使用に努める薬剤部の取り組みは、診断と治療、看護、臨床検査と並ぶベーシックな領域といえよう。臨床検査部勤務の経験を持つ森嶋祥之氏(薬剤師・臨床検査技師)は、脂質系の診断をめぐり、総コレステロールや中性脂肪など迅速に結果の出る「量」の検査が中心に実施されていると指摘。リポ蛋白分画精密測定、コレステロール分画といった「質」の情報があまり使われない要因として泳動波形の解析などある程度の専門性が求められるためと捉え、脂質検査結果を1枚にまとめた報告書を作成することにより、短時間に質と量を伴った病態解析が行えるようになった現状を報告した。
この中で森嶋氏は、アガロース電気泳動法による脂質異常症の分類パターンや超遠心法との相関を図示。中性脂肪にもコレステロールと同様、LDL-TG なども存在するため、今後、その動きも踏まえて薬剤の選択を行う必要があると主張するなど薬剤師が脂質検査解析に関わることで、より適正な薬物治療が推進されるとアピールした。

講演Ⅱ 「高齢者糖尿病患者の薬物療法」

高齢者に求められる個々の状態に
応じたアドヒアランスの工夫

藍野病院 中央診療部長/地域医療連携センター長 山本直宗氏

藍野病院 山本直宗医師.JPG

日本糖尿病学会と日本老年医学会は今年5月、高齢者糖尿病の血糖コントロール目標値(HbA1c 値)を発表した。3年前の熊本宣言をさらに深化させた内容。年齢やADL(日常生活動作)、認知機能などを勘案して3段階に区切り、個々の患者に合わせて安全かつ効果的に糖尿病の治療を行えるよう工夫されている。内科・糖尿病の専門医である山本直宗氏は、高齢者糖尿病の問題点を挙げた上、アドヒアランスの向上を図った具体例を報告した。
【問題点】

①身体的、精神的(認知症・抑うつ)に多くの合併症を有する

②自分の身体状態の把握や説明を正しくできない

③多剤併用による薬剤管理アドヒアランスの低下

④独居、キーパーソンの不在

⑤社会的リソースの非活用

⑥受診の制限

⑦これらの理由による治療アドヒアランスの低下

これを踏まえて山本氏は、内服調整を行った2型糖尿病や正常血糖領域糖尿病ケトーシスなどケーススタディと併せ、処方薬の整理(服薬数の削減)、服用法の簡便化、介護者が管理しやすい服用法の提案、剤形の工夫、一包化の指示といった高齢者の特性に基づく取り組みをアピール。今後について「血糖低下の目標値とともに血糖コントロールの質も問われる時代になる」との展望を示した。

【大内会】第19回推薦医部会講演会.JPG