大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン5月号掲載(H28.3.12第18回推薦医部会講演会)

大阪府内科医会 第18回推薦医部会講演会

超高齢社会下に望ましい医療の枠組みと健康長寿に貢献する運動の効用

 大阪府内科医会(会長:福田正博氏)は3月12日、第18回推薦医部会講演会を開催した。全国に先駆けて2007年2月に施行された「推薦医制度」は、内部審査に合格した会員を「市民に推薦するに足りる臨床内科医」と認めて顕彰する取り組み。当日は、2016年度新規・更新審査の公表、合格証授与式のほか、同会会員を対象に行われた「SGLT2阻害薬の治療満足度に関する調査」の結果が福田会長より報告された。小誌では2講演について紹介する。(編集部)

部会講演 「フランスにおける地域包括ケアと皆保険制度」

参考にしたいフランス版"地域包括ケア"在宅入院(HAD)制度

大阪大学大学院医学系研究科心臓血管外科 招聘准教授 
前参議院議員/元厚生労働大臣政務官 梅村 聡氏

 超高齢社会を背景に地域包括ケアシステムの構築が進められる中、昨年の部会講演に引き続き講師に招かれた梅村氏は、日本と同じく「国民皆保険制度」を実現しているフランスの現状について報告した。
 老年人口の増大は先進国共通の社会問題となっており、フランスも例外ではない。逼迫する財政の軽減化を図るため、フランスでは次の医療改革に取り組んできた。
 ▽地方医療庁の創設('10)▽全国医療保険支出目標設定('97)▽かかりつけ医の義務化('04)▽患者カード(バイタルカード)による医療情報管理▽自己負担増('04 以降、降、受診時定額負担1ユーロ)▽医師養成課程と専門医制度の変更('05以降、一般医も専門医の一部との位置付け)▽高等保健機構による医療経済学的評価の徹底('05)─。
 人口(6100 万人)当たりの病床数(約47 万床)が日本より少ないフランスでは、在宅入院(HAD)制度が設けられている。これは、原則として限定された期間、コーディネート医師およびコメディカル職のコーディネートにより、継続性を要する治療を居宅で受けられるサービス。「開業看護師」が中心となり、高度医療の場合、1日3回・約1時間/回の頻度で訪問する。支払いはス。「開業看護師」が中心となり、高度医療の場合、1日3回・約1時間/回の頻度で訪問する。支払いは包括払い。同疾患なら高度医療でも病院に比べて費用は4分の1ほどになるという。政策当局の"イチ押し"でHAD は、全土で311 ある機関数を増やさないまま'18 年までに活動量を2倍に引き上げる意向が示されている。HAD の業務内容は①緩和ケア(25.1%)②ストーマやガーゼ交換など複雑かつ特定のケア(24.4%)③2時間以上の重い看護(10.6%)など。脳血管障害や虚血性心疾患、悪性腫瘍、呼吸器感染症といった病院とほぼ同レベルのケアが行なわれている。
 フランス視察を通じて梅村氏は「かかりつけ医が指示する日本の在宅医療と、HAD では医療レベルが異なる。しかし、受け手は同じ看護師。教育課程や育成方法が異なるのか。また、日本の地域包括ケアシステムがマンパワー的・コスト的に最適化されたものかどうかは疑問。今後、掘り下げて検証したい」と自らの課題を挙げた。

特別講演 「糖尿病患者における運動と糖質の意義を再考する」

肝臓・骨格筋に蓄積される異所性脂肪解消につながる運動療法

順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学准教授/スポートロジーセンター運営委員長 
順天堂大学国際教養学部グローバルヘルスサービス領域 先任准教授 田村好史氏

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 医学部とスポーツ健康科学部を併せ持つ順天堂大学では、1年次に両学部生が混じって寮生活を送るため、それぞれの領域に理解と関心を寄せるスクールカラーが生まれるという。オリンピック、世界体操、箱根駅伝などの目覚ましい活躍の背景には「スポーツと医学で健康を支える」という大学の理念がある。文科省支援事業として同大学院に設置されたスポートロジーセンターも類例のない取り組みとして注目される。同センターは、トランスレーショナルリサーチによる運動の理論的実践とエビデンスの蓄積、専門スタッフの育成を目的にした『Sportology』を生活習慣病や認知症などの予防とケアに応用するための研究を進めている。同センターの運営委員長を務める田村氏は、この日の特別講演で「運動と糖質と肝臓」「運動療法の強度」「筋力」「臨床的展開」にフォーカスを絞って詳説した。
 冒頭、運動の効果について米国スポーツ医学会のホームページに掲げられている「Exercise is Medicine」(運動は薬です)との標語を引用し「がんや動脈硬化、骨粗鬆症の予防」「血圧を下げる」「若々しくいられる」「気分が良くなる」「よく眠れる」といった項目を列挙。約1万4000 人の男性を対象に6年間のBMIとフィットネスの変化とその後の予後を追った調査では「太っていても体力さえ維持できていれば総死亡の危険率はそれほど高まらない」との結果が示され、運動は「痩せる」ことを指標に行うだけであるのは問題があり、疫学研究の結果からは「やるか、やらないかが運命の分かれ道」となっている点を強調した。
 肥満でもたらされるインスリン抵抗性は、2型糖尿病の重要な発症因子であるとともに、メタボリックシンドロームにもつながる。日本人を含む東アジア人の場合、それほど太らなくてもメタボや糖尿病に罹患しやすいという。この理由は長らく不明な点を残していたが、1H-MRS法(proton magnetic resonance spectroscopy)による肝臓・骨格筋における細胞内脂質(異所性脂肪)の測定技術が確立した現在、非肥満者でも高脂肪食や運動不足で異所性脂肪の蓄積(脂肪肝・脂肪筋など)を引き起こし、インスリン抵抗性に至ると分かってきた。皮下脂肪とも内臓脂肪とも違う"第3の脂肪"異所性脂肪に着目する田村氏らは、高脂肪食・運動不足などの生活習慣が肥満になるより以前に肝臓・骨格筋における細胞内を直接的に肥満状態へと導くとの「細胞内肥満仮説」を立て、食事と運動療法の検証を重ねている。
 最近の研究では、糖質も異所性脂肪の蓄積に加担していることが明らかになりつつある。脂肪肝(肝脂肪率5%以上)を形成している脂質の一部は経口摂取された糖質と考えられている。運動不足で骨格筋にインスリン抵抗性が起こると、そこに取り込まれるべき脂質が肝臓へ流れ、その糖質から中性脂肪が合成され、脂肪肝や高中性脂肪血症になる。運動すると直接、骨格筋を収縮させて脂肪筋を解消し、インスリン抵抗性を改善するだけでなく、間接的に肝臓への糖質の流入を制限することで脂肪肝を改善していると見られている。このことから運動量に合わせて糖質を調整すれば、高血糖と同時に脂肪肝の改善にも貢献する可能性があると指摘された。
 しかしながら糖尿病患者の運動療法の実施率は半数にすぎない。最後に田村氏は、歩数を1日3000 歩増やすと10 年間の死亡率が25.3%ダウンする可能性があるほか、虚血性心疾患16.2%減、脳溢血21%減などのデータを挙げ、聴講する実地医家に第一目標として「プラス2000歩の運動指示」を呼び掛け、最終的に8000 ~1万歩/日を目指し「まずは歩くことから」と訴えた。

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