大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン4月号掲載(H28.2.25 定例学術講演会)


急性心筋梗塞による突然死防ぐ前駆的発作時の診断・治療

 大阪府内科医会(会長:福田正博氏)、は2月25日、大阪市内で定例学術講演会を開催した。心筋梗塞(MI=Myocardial Infarction)による突然死を防ぐため、実地医家に何が求められるか――。当日は、急性心筋梗塞の原因や病態、診断法、その前兆などが詳しく説明されるとともに、前駆症状を看過せずに受診する市民啓発活動キャンペーンが紹介された。(編集部)

『STOP MI ~心筋梗塞(MI)から大切な命を守ろう~』

キャンペーンの実施で
早期受診の重要性アピール

大阪医療センター 循環器内科 科長 上田恭敬氏

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致死率40%・年間4万人死亡
うち入院前に3万5000人落命

 致死率約40%で4万人/年が死亡する急性心筋梗塞は、入院中死亡5000 人に対し、搬送されるまでに3万5000 人が命を落としているという。発症してしまったら一刻も早く循環器内科に受診することが望ましい。
狭心症や心不全などの特殊外来を持つ国立病院機構大阪医療センター循環器内科科長の上田恭敬氏は「急
性心筋梗塞を発症する患者(約10万人/年)のうち50%は、数日~数カ月前に前兆となる不安定狭心症の症状が現れている。この時期に診断すれば、より安全に治療できる」と強調。その前兆について次の症状を挙げた。
▽胸痛・胸部圧迫感・胸部絞扼感
▽胸焼け・心窩部不快感
▽腕、顎、歯の痛み
▽持続は数分以上(瞬間的な痛みは
否定的)
▽労作による誘発(体位による誘発
は否定的)
▽繰り返す症状
 こうした症状はいずれも個人差が大きく、数分しか持続しないなど至って軽く済むケースも少なくない。しかしながら経験したことのない胸部症状を繰り返す場合、前兆である可能性を考える必要がある。この段階で治療できるか否かが生死を分ける。
 診断法としては▽心電図ST 変化(過去の心電図と比較)▽トロポニン(高値なら即入院/正常範囲内高値も要注意)▽心エコー左室壁運動異常▽冠動脈CT、心臓カテーテル検査─が採り入れられている。ただし、心電図、血液検査、心エコーでは全く異常を認めないケースも多いので、疑わしい場合は早急に冠動脈CT などによる精査が必要である。

血管内腔のプラーク管理で「ドロドロ血」から「サラサラ血」へ

 心筋梗塞のリスクファクターとして高血圧、脂質異常症(高脂血症)、運動不足、糖尿病、肥満、喫煙などが報告されている。ここから動脈硬化、不安定狭心症へと進み、最終的に急性心筋梗塞で突然死を招く。血管内視鏡で血管内腔を観察すると、正常な冠動脈が白く見えるのに対し、動脈硬化病変は黄色のプラー
クが溜まって狭窄している。粥状のプラークは、コレステロールや脂肪などの物質と血中のマクロファージが冠動脈の血管内膜に沈着した汚れである。発生初期は線維成分が多いが、動脈硬化の進行に伴って徐々に脂質成分が増え、血管内腔を狭窄していく。
 プラークは破れると血栓をつくり、急性冠症候群(ACS)発症の恐れが高まる。発症するかどうかは「人それぞれ」だが、沈着しているとリスキーであることは事実だ。プラーク破綻から閉塞性血栓形成まで数日~数週間を要するが、1日で至る率も50%に及ぶ。プラーク形成から心筋梗塞を発症するまでの機序を図示しつつ上田氏は、脂質異常症治療に使われる『スタチン』にプラークの安定化と退縮を促す作用のあることを紹介。プラークを破綻させないため、スタチン系の薬剤投与が有効であるとの見解を示した。いわゆる「ドロドロの血液」は「食べ過ぎ・飲み過ぎで血液中の糖質や脂質が増えている」「傷ついた血管を修復するため血小板が集まって血流が停滞している」といった状態になっている。これに対し「サラサラな血液」は、動脈硬化や高血圧の改善や血栓による心筋梗塞などの予防につながるため推奨されている。それでは「血液をサラサラにすると本当に心筋梗塞を予防できるか」─この根源的な疑問に上田氏は、抗血小板剤を2剤併用した臨床試験の結果から「発症頻度が低くなる」と認めた。
 血小板の働きが強すぎると、血管内でも血液が固まり始め、血液の粘度が高くなる。アスピリンに代表される抗血小板剤は文字通り、血小板の働きを抑制する。半面、出血しやすくなるので「リスクとベネフィットを考える」との選択が臨床現場で行われている。

急性心筋梗塞の前兆を感じたら
ためらわずに救急車を

心停止後1分以内に心肺蘇生もしくはAED の処置があった場合、生存率は90%を超えるという。しかし、これはタイミング的に「相当のラッキー」(同氏)で一般論として期待しにくい。
それよりも入院時、発症時、さらには前駆症状へとさかのぼって治療する流れが定着すれば、患者数を半減できるとアピールされた。
上田氏らの試算によると、急性心筋梗塞患者を半減させた際の効果は、死亡患者減少数:約2万人/入院患者減少数:約3万5000 人で、医療費節約効果は700 億円にもなる。
これを訴えるキャンペーン『STOP MI ~心筋梗塞(MI)から大切な命を守ろう~』では、全ての生活者が心筋梗塞の前兆が現れた段階で受診することを"常識"と捉える意識の普及を目指す。入院時に前駆的発作を認める割合が「0%」になれば目標達成だ。
そのために必要とされる項目は次の通り。
▽市民啓発活動による受診行動への誘導
▽非専門医啓発活動による専門医への紹介促進
▽確実な診断法の検討
▽心筋梗塞入院患者における前駆症状の割合を目標達成の指標とする


最後に上田氏は「経験のない胸痛や胸部圧迫感が断続的に繰り返したり、20 分以上持続したりする場合には、救急車を呼んでも構わない」との目安を示した。
また、大阪医療センターが救急対応していないとの"誤解"が府内に根強くあることを憂慮。
「大阪医療センター循環器内科は、365 日24 時間対応している。いつでも気軽にご紹介を。早期診断が救命につながる」と会場に呼び掛けた。

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