大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン1月号掲載(H27.10.29定例学術講演会)

大阪府内科医会 10月定例学術講演会

日本の総合医療は日本の文化や医療体制に
                      合致したものであることは明らか

 大阪府内科医会(会長:福田正博氏)は10 月29 日、大阪市内において「定例学術講演会」を開催した。今回は家庭医療並びに総合診療で行われている診療手法について、この分野の第一人者である竹村洋典氏が講演した。 (編集部)

講演『日常診療で役に立つ総合診療的アプローチ』

地域住民のニーズにあった
          プライマリ・ケアを提供するのが総合診療医

三重大学大学院 医学系研究科臨床医学系講座 家庭医療学分野 教授 竹村洋典氏

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包括的医療の実施が
       患者の受診行動に影響

 「総合診療医とは何か?」と、よく聞かれることがあると切り出した竹村氏は、「総合診療というのはニーズ主義。これについては多くの国でニーズ主義といわれている」と説明。地域住民のニーズにあったプライマリ・ケアを提供することができるのが総合診療医であるという。
 竹村氏は例として、米国と日本の総合診療医のニーズの違いを挙げる。「米国の総合診療医は産婦人科疾患のケアにあたることもあったが、日本で同じことをやろうとしても、専門医ではないという理由で患者から拒否されてしまう」。一方で、米国では安全性等の問題からか在宅医療のニーズはあまりないというが、日本ではニーズが広く、在宅医療の教育や研修は必要で、ニーズは高いという。
 特に日本は今後、少子高齢化と地域医療構想により、在宅医療の需要がさらに増加すると推測されている。竹村氏は高齢者が増えれば増えるほど一人の高齢者がさまざまな疾患を持つようになるとして「多くの高齢者がそれぞれの専門領域だけにかかるのは現実的ではない」と述べ、1人の医師が包括的に医療を行う必要があると訴えた。竹村氏は、地域住民の受診行動に影響する因子の研究を行っており、その結果、「医師の包括性が低ければ低いほど受診頻度が多く、時間外受診、救急受診が非常に多い」と報告し、日本においても包括的医療が重要であると強調した。研究から包括的医療の実施が患者の受療行動にいい影響があることが分かったことで、「包括的な医療情報を効率的にまとめていくことが総合診療医の診療に必要とされている」とした。
 包括的医療について竹村氏は、1対1対応のパターン認識よりも、仮説演繹法によって、多くの疾患の中で徐々に仮説を除外していくことが総合診療では必要だという。
 「慢性的に診ている患者の中に、『今日は何かおかしい?』と思うことがあったときに、仮説演繹法の思考にならなければいけない」
 また、仮説を立てる上で重要な原則として、Common(よく起こる疾患)、Critical( 危険な疾患)、Curable(治せる疾患)の3つを挙げ、「Common とCritical は、包括的医療をする上で非常に重要な部分」として、総合診療を行う上での大事な要素を示した。

地域包括ケアシステムの構築には
             各職種の地域差を認識する

 次に竹村氏は、総合診療を実践していくキーワードの一つに、多職種連携を挙げる。「多職種連携は話し合いをしながら、互いに協力しながら行うことが非常に重要」と述べ、多職種連携は医療者や医療従事者だけでなく、警察官など医療系でない地域を構成する人たちとの連携でさえも非常に重要であると強調する。
 また前述のとおり、老年人口の増加と地域医療構想によって、今後さらに在宅医療の需要が増加する中で、在宅医療を効果的に動かすには地域包括ケアシステムの構築が重要だとして「地域包括ケアシステムの構築には、各職種の地域差を認識し、利用者のニーズを提供する医療職種の限界を勘案する必要がある」と説明し、連携のためには多職種との深い信頼関係の構築が必要だと述べた。さらに竹村氏はフリーアクセスに言及し、「日本の患者は医療機関を選べるフリーアクセスの恩恵を最大限生かしているが、その選択が必ずしも正しいとは言えない」と述べ、社会保障費の財源確保の問題が続いていけば、自ずとプライマリ・ケアを重視する状況になっていくと予測。今後、専門医の配置よりも、総合診療医の存在意義を訴える。
 在宅医療については、在宅医療を行える医師の多寡が問題と考えられるが、実際は家庭内のマンパワー不足で在宅医療を受けられない、または費用の問題で介護関連施設に入所することのできない方が多いのだと竹村氏は調査に基づき、説明した。「在宅医療が可能な医師がいないからではなく、現行の報酬体系や地域全体で訪問診療を行う際の制度が整っていない」ことなどが課題として存在すると竹村氏は指摘し、もはや医師ではなく、国や制度の問題を変える必要があるとの認識を示した。

患者中心の医療を目指して

 さらに患者の立場に立った医療についての調査結果にも言及。「患者は、患者自身が病気だと認識し、医療機関に行く意味があると思うがゆえに医療機関に来る」という。「本当の病気は患者が思っている病気と異なる場合があり、さらには病気でもない場合もある」。そこで竹村氏は、外来ではビデオ撮影を行って、患者の情報を得るなど、医療面接の研究も進めている。現状の日本の医師面接教育では、Open-endedquestion が重視されている。しかし、竹村氏の研究によると、Openendedquestion では患者から身体的情報を十分に収集できるとは言えないのではないかと述べ、「患者の情緒的な情報を収集する機能があり、自殺の予防や継続的医療へのモチベーションを向上させるのではないか」と指摘する。さらにOpenendedquestion が患者満足度を向上させる可能性についても言及した。日常の診療においては、診断し治療するのと同時に、患者の思考や期待することを予測する必要があり、さらには患者の受療行動に影響する患者の心理社会的な背景も、ある程度知っておくことなど、患者中心の医療が望まれるという。
 最後に竹村氏は、日本の総合医療は、「日本の文化や医療体制に合致したアプローチが重要で、欧米の考え方ではなく、日本人に適した教育と研修によって、地域住民が健康で豊かに生きていけるよう、更なる探索が重要」と述べ、真に求められる総合診療の在り方を明らかにする必要があると強調し、講演を結んだ。

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