大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン11月号掲載(H27.8.22神経難病講演会)

大阪府内科医会 神経難病講演会

治療可能な疾患が増えた「免疫性神経疾患」を解説

 大阪府内科医会(会長・福田正博氏)は8月22 日、「免疫性神経疾患」をテーマに一般内科向け神経難病講演会を開催した。多発性硬化症、重症筋無力症などの免疫性神経疾患は、難治性が多いとされる神経疾患の中でも治療可能な疾患が多く、早期診断と治療によって予後を大幅に改善することが可能になっている。本講演では、近畿大学の宮本勝一氏が代表的な免疫性神経疾患の特徴および検査の依頼の仕方、専門医への紹介のタイミングなどを解説。専門医だけでなく臨床内科医も診療に携わる疾患であり、病診連携の重要性が示された講演となった。 (編集部)


「臨床内科医に必要な免疫性神経疾患の知識 ~早期発見に心がけること~」

免疫性神経疾患の早期発見・治療には
病診連携の充実がカギ

近畿大学医学部神経内科 准教授宮本勝一氏

宮本先生 (300x199).jpg

患者数が増加傾向にある中
専門病院だけでは対応できない

 多発性硬化症の患者数は2008 年に約1万3,000 名だったのが2013年には1万8,000 名に、重症筋無力症の場合は1 万6,000 名が2万名になるなど、免疫性神経疾患の患者数は年々増加の傾向が認められる(特定疾患医療受給者証所持者数より)。宮本氏は、患者数が増える中、精査できる基幹病院は大阪府内でも不足している地域があると指摘。そのため、基幹病院で確定診断を行い、症状の安定した患者を地域へ逆紹介する病診連携の重要性が高まっているという。 免疫性神経疾患の発症メカニズムは、液性免疫と細胞性免疫に大別される。重症筋無力症やギラン・バレー症候群などが該当する液性免疫機序は、感染症や腫瘍、アレルギーなどを誘因に自己抗体が産生され、標的抗原に結合することで機能が障害される。一方、多発性硬化症を代表とする細胞性免疫機序は、T 細胞が末梢で増殖し、血液脳関門を通過して中枢神経ミリオン蛋白を攻撃することで発症するとされている。
 「前者では、自己抗体の検出によって確定診断が可能になり、早期治療の開始および予後の改善が期待できる疾患が増えてきた。後者の場合も治療薬の開発が進められている現況にある」(同氏)

多くの病態には自己抗体が関与
検出によって確定診断が可能に

 次に宮本氏は、代表的な免疫性神経疾患の特徴や留意点を紹介した。

●多発性硬化症/視神経脊髄炎 中枢神経系の脱髄疾患である多発性硬化症(MS)は、空間的・時間的に病変が多発することが特徴となる。20 ~ 40 歳代に発病し、女性に多い。診断にはMRI 検査、髄液検査が有用となる。臨床経過には、再発・寛解型、二次進行型、一次進行型があり、再発・寛解を繰り返すうち、徐々に機能障害が起きてくる二次進行型に移行することがあり、治療で進行を食い止めることが重要になる。また、MS では歩行障害が出始めたら急速に病態が進行することからも、早期治療が求められるという。その治療は、インターフェロン療法が主となるが、昨今では内服薬をはじめとした新たな治療薬が登場している。 MS の亜型とされていた視神経脊髄炎(NMO)は、これまでMS と同じ治療内容だった。昨今、NMOには特異的な自己抗体(抗アクアポリン4〈AQP4〉抗体など)があることが発見され、MS と異なる病態であることが判明した。従って治療法もMS とは異なる。宮本氏は「NMO が疑われる状態であれば、抗体検査が有用。少しでも迷いがあれば脳卒中に対応できる病院へ」と説明した。

●重症筋無力症 神経筋接合部の伝達が阻害される重症筋無力症(MG)は、女性の20~ 30 代に多く、男性では50 歳以上に多く見られる。随意筋の脱力と易疲労性を示し、脱力は休息で回復し、運動により増悪する。眼瞼下垂などの症状が見られる眼筋型と、全身に及ぶ全身型があり、「眼瞼下垂は加齢によるものと思われがち。複視や日内変動も見られたら、MG を疑ってほしい」。全身型なら速やかに神経内科へ紹介し、眼筋型ならばMRI 検査や胸部レントゲン、血液検査を実施。MG の自己抗体は抗アセチルコリン受容体(AchR)抗体のほか、昨今では抗Musk 抗体、抗Lrp4 抗体が発見され、診断が以前より容易になったという。

● ギラン・バレー症候群/ Fisher症候群 ギラン・バレー症候群(GBS)は、カンピロバクター、サイトメガロウイルスなどによる先行感染などが原因となって末梢神経障害を起こす自己免疫疾患と考えられている。四肢の脱力を主徴とし、急性期は呼吸筋まひに至ることもあるが、基本的に予後はよい。GBS の病態形成には抗ガングリオシド抗体が強く影響している。従来からその関係性を世界に先駆けて研究してきた宮本氏の診療科では、無料で抗ガンクリオシド抗体測定を実施。年々依頼件数が増加し、本年はすでに5,000 件を超えた。年間では6月に依頼件数が多く、宮本氏は「食中毒の増加時期と関連している」と分析している。GBS の亜型とされるFisher 症候群は、外眼筋まひ・運動失調・腱反射消失を三徴とする。通常は無治療だが、四肢まひが出現し、GBSに移行することもある。宮本氏は、GBS/Fisher 症候群の留意点として、症状が進行中の場合は、神経内科へ間を置かずに紹介し、症状のピークが過ぎている場合は、頭部・脊椎MRI 検査や全身疾患の検索や自己抗体を含む血液検査を施行した上で、専門医への紹介を考慮してほしいと強調した。
 

講演では、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、多巣性運動ニューロパチー(MMN)、HTLV- Ⅰ関連脊髄症(HAM)、多発性筋炎の解説後、近医の診療所受診を契機にMSの診断がついた症例が紹介された。宮本氏は「新しい検査法や新規治療薬の開発が盛んであり、今後、治療可能な疾患が増えることが期待される」と述べ、講演をまとめた。

会場 (300x199).jpg