大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン10月号掲載(H27.7.25第13回大阪臨床糖尿病医会)

第13回大阪臨床糖尿病医会(後援:大阪府内科医会)

糖尿病治療中断を防ぐには
要因を見定め個々に対応する

 大阪臨床糖尿病医会は7月25 日、「第13 回大阪臨床糖尿病医会」を開催した。同会は、実地医家が日々の臨床における工夫や問題点、診療検討などについての意見交換の場で、日々の臨床に貢献することを目的としている。今回は、テーマを「糖尿病治療を中断させないために」と題し、治療中断を防ぐための患者への対応などが報告された。(編集部)

話題提供1『アンケート結果報告』

経済的・社会的問題で
治療中断を経験した医師が多数

山尾内科クリニック院長 山尾卓司氏

山尾先生 (300x200).jpg

 話題提供1は、同会会員に実施した「診療している糖尿病患者数と診療形態、患者の経済的な問題による治療手段、糖尿病手帳の利用状況」についてのアンケート結果を、第13 回大阪臨床糖尿病医会当番世話人である山尾内科クリニックの山尾氏が報告した(有効回答32)。
 それによると、1 カ月に診療する糖尿病患者数は、301 人から500 人の階層が10 人と一番多く、2006 年に実施したアンケートと比べると50 人以下が多かったが、年を追うごとに糖尿病患者が増加傾向にあることが分かった。
 糖尿病診療に関わる経済的・社会的問題での患者の治療中断についての結果に対して山尾氏は、「経済的・社会的問題で糖尿病患者の治療中断を経験された医師が多数を占めており、全く経験のない医師は皆無だった」と述べ、患者の経済力を考慮している医師が多いことが明らかになった。また、アンケートの回収率が少ないので、一概にはいえないが、大阪府内のどの地区においても経済的・社会的問題での糖尿病治療中断例が存在する可能性があるという。「検査費・薬剤費などの軽減で治療の中断を回避することが可能と考えられる」とし、具体的な方法論については議論を深める必要があると強調した。
 糖尿病連携手帳の利用状況については、半数近くの医師が活用しているが、同時に活用していない医師もいることから、「複数の診療科が診察に当たっている現状を認識し、情報交換の方法の一つとして、糖尿病連携手帳の積極的な活用の推進ならびにコミュニケーションの方法を模索していく必要がある」と訴えた。

話題提供2『基礎インスリンを使いこなす~空腹時血糖を下げる意義~』

血糖コントロールが可能になれば
インスリン離脱も可能

高槻赤十字病院糖尿病・内分泌・生活習慣病科部長
金子至寿佳氏

金子先生 (300x200).jpg

 高槻赤十字病院の金子氏は、インスリン治療を導入せざるを得ない患者に対して、服薬指導だけではなく、インスリンを使用する意義について丁寧に説明すれば不安は解消すると話す。「1日1回投与のインスリン デグルデクの登場で、基礎インスリンの必要量を減らすことができるようになったことで医療費が抑えられ、夜間の低血糖リスクの低減も期待できる」とし、インスリン治療は決して安価ではないが、基礎インスリンを使いこなせば場合によっては経口薬の3剤併用などよりも医療費が抑えられることがあると説明する。
 そこで金子氏は、糖尿病治療は食事療法と運動療法が一番に選択すべきであると前置きした上で、簡単に実施できるインスリン導入方法を紹介。
 例えば空腹時血糖が200㎎ /dL を超え、もはや経口糖尿病薬で血糖コントロールができなくなって高値を示している場合、「経口糖尿病薬を使い続けるのではなく早期にインスリン デグルデクを導入し、最初の3日間は4単位で、次の3日間は6単位まで増やし空腹時血糖120㎎ /dL を目指す」。空腹時血糖と食後血糖を見ながら増量することで血糖コントロールが可能になる。インスリンから離脱することができ、さらにはインスリン導入前に使用していた経口糖尿病薬よりも少ない薬物療法で、良好な血糖コントロールを得ることができるようになる場合も少なくないという。
 「安易に強化療法を行ってしまうと食事運動療法を行わなくとも血糖値が下がってしまうが、すぐに強化療法に進まず基礎インスリンを導入しながら食後血糖を測定することで、患者自身も食事運動療法の効果を確認することができる」。
 さらに金子氏は、食育の重要性にも言及し、「偏った食生活や運動不足で、糖尿病に起因する狭心症や腎障害を発症する30 ~ 40 歳代の患者が確実に増えている」と述べ、教育と医療が連携し、子どものころから成人しても自身の健康を守る力を鍛えなければいけないと訴え、予防医学教育の重要性を強調した。

特別講演『糖尿病治療中断を防ぐ診療~ J-DOIT2 の結果もふまえて~』

糖尿病治療の必要性に対する
理解の強化が重要

つくば糖尿病センター 川井クリニック院長
山﨑勝也氏

特別講演:山崎先生 (300x200).jpg

 つくば糖尿病センター・川井クリニックの山﨑氏は、「2012 年の国民健康・栄養調査の報告で、いわゆる糖尿病予備軍といわれる方の数は若干減っているが、糖尿病患者は950 万人に増加していることが推定される」と述べ、実際の治療状況については、無治療は減少していると報告。「65%に近い人数が治療を受けているが、逆に35%の方がまだ治療を受けていない」として、その中で、治療中断割合が約6%存在している現状を強調した。中断は男女ともに若い世代に多く、年齢が高くなるにつれて治療している患者が増えているという。「40 歳未満で糖尿病患者が増加している現状において、治療介入が難しい問題になっている」。
 山﨑氏は、受診中断は合併症の進展原因の大きな理由として挙げられると述べ、受診中断率を低下させることを目的とした、「わが国から発信されるエビデンスを目指す糖尿病戦略研究(J-DOIT)」の、「かかりつけ医に通院する2型糖尿病患者の治療中断率を改善する効果を検証する研究(J-DOIT2)」結果について紹介した。「主要評価項目は受診中断で、同時に、糖尿病診療支援が、受診中断率を改善
する効果も検証した」。
 最初に4医師会を対象としたパイロット研究を通常診断群と診療支援群に分けて実施し、大規模研究では、11医師会を対象に行われた。本登録数は研究全体で、かかりつけ医192 人(診断支援群93 人、通常診断群99 人)被験者2,236 人(診断支援群971 人、通常診療群1,265 人)が参加。主要評価項目である受診診断率については、パイロット研究、大規模研究でも約8%(1年当たり)であり、この辺りの数字が2型糖尿病患者における受診中断率と見ていいという。
 また、通常診断群に比べて診断支援群の方が中断率は低く、診療支援が受診中断を防げている結果が示され、「若年者も高齢者も同様に受診中断を防げている」と語った。
 受診中断の理由として両群合わせて最も多かったのが仕事の忙しさを理由にするもので、他に治療の必要性の理解が不十分であることと、医療費が経済的負担となる、の3つが主な中断理由であることが明らかになったという。
 受診中断者の対応について山﨑氏は、電話による受診勧奨が有効であることを示し、「多忙による受診中断による対策が取られていないにもかかわらず、受診勧奨が有効なのは、糖尿病治療の必要性に対する理解の強化と、医療者との結び付きの強さの有効性を表す」と述べ、受診中断を防ぐには患者との信頼関係の構築も重要になるのではないかとまとめた。