大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン5月号掲載(2015年)

大阪府内科医会 『第16回女性と医師が語り合う会』

高血圧の診断基準「最大140mmHg/最小90 mmHg以上」など周知


 大阪府内科医会(会長・福田正博氏)は3月8日、府医師協同組合本館(大阪市中央区)で『第16 回 女性と医師が語り合う会』を開催した。家庭の健康を守る女性を対象に身近な病気の基礎知識や健康づくりのポイントなどを啓発する目的で、同会名誉会長の山家健一氏が16 年前に始めた公開イベント。当日は『血圧』をテーマに、メーン講演と大内会推薦医を囲んでのグループトーク、パネルディスカッションなどが行われた。 (編集部)

メーン講演
『あなたの知らない 血圧のヒ・ミ・ツ』

高血圧は「サイレントキラー」
求められる予防と早期診断

大阪府内科医会理事 竺原俊光氏

【講演】大内会理事 竺原俊光氏 (300x229).jpg

 メーン講演の講師を務めた同会理事の竺原俊光氏(じくはら医院・大阪市西淀川区)は、循環器専門医の立場から健康のバロメーターとなる「血圧」の仕組みや正常値、高血圧の危険因子や症状、高血圧によって引き起こされる疾患、降圧治療の重要性、家庭血圧の正しい測り方など広範にわたって要点を取り上げた。
 血液が動脈を流れるときにかかる血管壁の圧力(血圧)について竺原氏は、会館前の幹線道路・上町筋の交通量に例えて分かりやすく説明。併せて最大血圧(収縮期)140mmHg /最小血圧(拡張期)90 mmHg 以上が高血圧の診断基準として「世界共通の認識」になっていることを繰り返し強調した。この基準をめぐっては、日本人間ドック学会と健康保険組合連合会が昨年4 月に「最大147mmHg / 最小94mmHg」以上を高血圧の新たな目安と発表したため、誤解と混乱を招く事態に陥った経緯がある。これに対し、竺原氏は「健診受診者約150 万人から1万人強の健常者を抽出した統計上の標準偏差であり、将来的に脳・心血管イベントを起こさない保証はない」との見解を示し「治療介入して正常値(最大140mmHg /最小90 mmHg 以下)に降圧すると脳・心血管イベント発症が抑制され、死亡率も下がる」とアピールした。特に糖尿病と高血圧の合併症患者は、脳卒中や心筋梗塞などの発症リスクが高まる。そのため、血糖と血圧のコントロールが重要視され、一般の高血圧の基準より低い「最大130mmHg / 80mmHg」の目標が設定されていることが伝えられた。
 現在、国内で約4,000 万人以上が高血圧と推定されているが、自覚症状がほとんどなく、40 ~ 50 歳代で約4割が治療せずに放置しているという。竺原氏は「高血圧は『沈黙の殺人者』を意味するサイレントキラーと呼ばれる怖い病気。血圧の高い状態が続くと、気付かないうちに脳・心臓・腎臓などの血管を傷め、重大な障害を起こしやすくなる」と警鐘を鳴らした。
 高血圧は、大きく本態性高血圧症と二次性高血圧症とに分けられる。そのうち、およそ90%が原因を特定できない本態性高血圧で、腎臓や神経系などの遺伝的な異常をはじめ、塩分の摂取過多、過食など生活習慣・環境の要因が加わって起こると考えられている。
 一方、二次性高血圧には発症の引き金となるはっきりした病気が指摘される。主な二次性高血圧として次の原因疾患と所見が挙げられた。
 ▽腎実質性高血圧、腎血管性高血圧、原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫、甲状腺機能亢進症、大動脈縮窄症、脳幹部血管圧迫、睡眠時無呼吸症、薬剤誘発性高血圧─。
 これら二次性高血圧は、原因疾患を治療すると血圧が下がるため、早期診断が望ましい。会場では「動脈硬化による合併症に行き着く前に治療を始めることが何より大切」と、健診や家庭での定期的な血圧測定の実行が呼び掛けられた。
 家庭で測定する「家庭血圧」は、原則として1機会に2回測り、その平均値を見ることが推奨されている。また、診察室血圧と家庭血圧で差がある場合、より臨床的価値の高い家庭血圧による診断が優先される。家庭血圧においては「最大135 mmHg 以上または最小85mmHg 以上」が高血圧とされる。家庭血圧の測り方は、①朝は起床後1時間以内、夜は就寝前②排尿は済ませてから③座って1 ~ 2 分の安静後④食前・服薬前⑤心臓と同じ高さ⑥記録する─。
 会場では、家庭で使用する血圧計は「上腕型」が比較的正確で望ましいとされ、白衣高血圧や仮面高血圧、早朝高血圧など家庭血圧でなければ見つけにくい症状もあるため「測定期間はできるだけ長く、脈拍を含めて全ての測定値を記録すること」がポイントとして挙げられた。

パネルディスカッション
『市民と医療を考える』~こんなことお医者さんに相談していいの?~

グループトークとパネルで学ぶ
生活習慣改善の重要性
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 続いてのグループトークでは、ボランティアに応じた推薦医が10 人弱ずつの小集団をペアで受け持ち、血圧をめぐる日ごろの不安や講演を聴講して感じた疑問など聞き取りを重ねた。高齢者を中心にした参加者(120 人)からは、連れ合いや家族の症状に対する心配などのほか「測るたびに違う」「脈拍はどの程度気にすればいいのか」「左右どちらの腕で測るのか」といったさまざまな質問が寄せられたが、家庭用血圧計については、7~8割方の居宅で備えられており、一般的な予防意識の高さと併せて高血圧がコモンディジーズになっている現状をあらためて印象付けた。
 グループトークで行われたやりとりは、パネルディスカッションの中で報告された。大内会の福田会長ならびに外山学副会長がコーディネーターを務めたこの席には、パネリストとして大内会の中尾治義副会長、竺原氏、市立堺病院の藤澤智巳担当部長、府薬剤師会の近藤直緒美理事の4氏が登壇した。
 席上、糖尿病診療に携わる藤澤氏は、高血圧と食事内容の関連に触れ「遺伝のほか、濃い味を好む嗜好が高血圧を起こす大きな要因になっている。幼少時に覚えた家庭の味は、大人になっても習慣になってつながる」と、「高血圧の家族内集積性」を指摘した。
 同様に中尾氏も外食に慣れた子どもたちがあっさりした味付けの給食を残す傾向にあることを学校医の視点を交えて述べた。家庭の味付けについては、福田会長や参加者からも昆布、かつお節のうま味、かんきつ類などを生かして塩分を減らす工夫が聞かれた。また、薬剤師の近藤氏は、よくある「降圧剤は一生止められないのか」との質問を取り上げ「環境および生活習慣を変えることで減らせる。しかし、加齢によって心機能は衰えていく。降圧剤は、血圧を下げると同時に心臓の負担を減らす意味もある」と理解を求めた。
 最後に竺原氏から「高血圧には、早歩きやサイクリングなど好気性の有酸素運動が良い」と説明され、家族・友人らと会話しながらの「ニコニコ運動」が勧められた。速歩とジョギングの中間くらいのペースで歩くウオーキングで、30 ~ 60 分/日×週3回が目安に示された。
 

リフレッシュタイムに行われた健康体操(ラソンテ バリュアブルトレーニングジム・大阪市)や藤澤氏が歌唱指導するミニコンサートなど盛りだくさんのプログラムで、知識の習得とストレス発散が図られた1 日となった。

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