大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン1月号掲載(2015年)

日常的に遭遇する末梢血管疾患の診断と処置法などレクチャー


 大阪府内科医会(会長・福田正博氏)は11 月26 日、大阪市内で定例学術講演会を開催した。日常的に身近な末梢血管疾患の病態とその診断ならびに処置法について関西医科大学附属滝井病院(大阪府守口市)の駒井宏好氏(同大学外科学講座教授)が詳しく解説。「閉塞性動脈硬化症」「腹部大動脈瘤」「下肢静脈瘤」「深部静脈血栓症」の4疾患をめぐる現状にフォーカスを絞り、それぞれの臨床事例が報告された。 (編集部)

講演
「明日からの診療に役立つ末梢血管疾患の診断と治療」

家庭医に求められる正しい知識と
専門医との密接な連携が重要


関西医科大学附属滝井病院

末梢血管外科部長 駒井 宏好 氏

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PAD患者の相対死亡率は大腸がんを上回る

 主に下肢の動脈硬化によって痛みを伴う歩行障害を起こす「閉塞性動脈硬化症」(PAD)は、老年人口の増加、糖尿病や喫煙などをリスクファクターに推計患者数約40 万~ 50万人から今後、さらに増加することが確実視されている。
 一昨年、西日本で唯一の血管外科単独診療科を持つ大学病院となり、初年度から国内トップクラスのPAD 手術件数をこなす駒井氏らは、家庭医と連携する軽症例の非侵襲的な初期診断から早急な血行再建が必要な重症例まで幅広く対応し、地域医療に貢献している。
 PAD の進行を表すFontaine 分類(▽Ⅰ度;冷感・しびれ▽Ⅱ度;間欠性跛行▽Ⅲ度;安静時痛▽Ⅳ度;潰瘍・壊死)では、Ⅱ度は血行再建相対適応、Ⅲ度以上の重症下肢虚血例だと血行再建絶対適応となる。この中で同氏は、間欠性跛行患者の予後に触れ、5年後に30%が死亡し、脳卒中や心筋梗塞など5~ 10%に合併症が現れる点を指摘。下肢にとどまらない全身の疾患であり、悪性腫瘍と比較したPAD 患者の相対死亡率は、大腸がん上回ると強調した。
 薬物療法に関しては、抗血小板薬(▽間欠性跛行の改善=シロスタゾール、サルポグレラート、点滴プロスタグランジンE1 製剤▽心血管イベント抑制、生命予後改善=アスピリン製剤、クロピドグレル硫酸塩、EPA 製剤)が中心となる。重症虚血肢患者の場合、血行再建が基本だが、潰瘍や壊死からの感染、疼痛コントロールなど血行再建が難しいと、下肢切断もやむを得ない選択肢に挙げられるが、いずれにしても早期の対処が必要である。
 PAD 患者のリスクファクターコントロールは、まず禁煙と抗血小板薬の処方のほか、コレステロールのコントロール(LDL コレステロール< 100mg/dL(ハイリスクの場合は< 70 mg/dL)、血圧の適正化(<140/90mmHg、糖尿病および腎不全では130/80mmHg)、糖尿病のコントロール(HbA1c < 7.0%))となっている。
 一方、家庭医が担う軽症のPADは、間欠性跛行が軽度であっても心血管イベントの抑制が望ましい。この段階では、足関節の脈拍触知不能、間欠性跛行の出現、ABI(足関節上腕血圧比)< 0.9 が認められれば専門医での評価、治療方針の決定が求められる。その後の保存的治療は主に家庭医に委ねられるべきである。
 次に「腹部大動脈瘤」について同氏は「破裂するまで無症状で経過するため、見逃されているケースが多い」と前置き、破裂すると耐えがたい激痛に襲われるので救急受診されるが、生存して病院にたどり着ける患者は50%に過ぎず、うち緊急手術をしても残りの60%しか救えない現状を示した。
 腹部大動脈瘤のリスクファクターは、高血圧・喫煙をはじめ、高齢(60歳以上)、男性、脂質異常症、遺伝(家族歴)。これらをスクリーニングの対象とし、他疾患の検査を目的にしたCT、腹部エコーでも必ず大動脈を意識してチェックすることが呼び掛けられた。
 腹部大動脈瘤の保存的治療は無効であり、最大直径5から5.5cm を超えると危険性が増すため、予防的に手術(▽開腹人工血管置換術▽血管内治療=ステントグラフト内挿術)が行われる。ステントグラフトは現在、高齢者や重症合併症患者でも対応できるようになっており、手術翌日から歩けるなど低侵襲で局所麻酔でも可能、傷が鼠蹊部のみなので術後の疼痛が少ないといった利点がある。半面、導入された歴史が新しく長期予後が不明、形態により不可能な場合もある。ステントグラフトの移動、瘤内血流の残存、場合により再治療・開腹人工血管置換術も想定されるなど欠点もある。

DVTにPTEが併発すると致命的にもなり得る

 女性の40 ~ 60%、中高年の60%以上に見られるcommon disease の「下肢静脈瘤」は、血液循環の逆流を防ぐ静脈弁が正しく閉じなくなって起こる。高齢の女性、長時間の立ち仕事(料理人、美容師、外科医など)、踏ん張ることの多い人(相撲取り、出産、便秘症など)、静脈潅流の悪い人(相撲取り、妊婦など)に多い。ふくらはぎや脛にボコボコと血管が浮き出て見えるが、生命や下肢の予後は良好。症状(だるさ、こむらがえり、皮膚潰瘍)が日常生活に支障を来すレベルなら外科的治療が行われる。
 最も多い一次性下肢静脈瘤の治療は、症状緩和および増悪予防が期待される圧迫療法(弾性ストッキング、弾性包帯)と、根治的な手術療法(高位結索、硬化療法、伏在静脈抜去術=ストリッピング術、血管内レーザー焼灼術)である。下肢静脈瘤について同氏は▽命に関わることはない、足が腐ることもない▽静脈瘤が高度でも症状がなければ放置も可能▽手術は局所麻酔で可能。安全・確実▽手術の決心がつかない人は弾性ストッキングで対応─と患者に伝えている。
 「深部静脈血栓症」(DVT)は、血栓によって片側下肢腫脹を来す疾患だが、この血栓が外れて血流に乗って飛び、肺動脈を閉塞させる肺血栓塞栓症(PTE)と表裏の関係にある。DVT を起こしやすいトリガーには、次の病態が挙げられる。 ▽血液性状の変化(凝固異常)=脱水、担がん状態、先天性凝固阻止因子欠損。ピル、ステロイド服用▽血流のうっ滞=長期臥床、全身麻酔中。足の骨折、脳卒中。妊娠、肥満▽血管内皮異常=中心静脈カテーテル挿入中、静脈手術後。
 突然の片側の下肢腫脹や疼痛・張り、静脈うっ滞症状(だるさ・むくみ・こむらがえり)、重症になった皮膚潰瘍(血栓後症候群)などがDVTにより発症する。しかし、最も重要なPTE が併発すれば早期に致命的となる可能性がある。胸痛、呼吸困難、血圧低下からショック、心停止を招いて突然死に至る恐れがある。また、DVT 発症から1~2週間のうちに多く起こることから、何よりも早期発見が重要とされる。
 DVT をめぐって同氏は「片側下肢腫脹は危険信号」「発症早期に専門医の診断を」「PTE 予防に抗凝固療法が必要」「今後、NOAC(新しい機序の抗凝固薬)にて管理が簡素になる」とまとめる。
 最後に「末梢血管疾患そのものに対して的確な診断と治療を施さなければ生命の危険が生じたり、QOLを著しく損ねたりする。正しい知識と専門医との密接な連携が求められる」と、聴講した大阪府内科医会々員に訴えた。