大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン12月号掲載(2014年)

大阪府内科医会 第15回推薦医部会講演会
第15回推薦医部会講演会 (300x170).jpg

SGLT2阻害薬の作用機序と糖尿病療養指導士の現状など詳細に報告

 大阪府内科医会(会長・福田正博氏)は10 月18 日、大阪市内で第15 回推薦医部会講演会を開催した。全国に先駆けて2007 年2月に施行された「推薦医制度」は、審査を経た会員を「市民に推薦するに足りる臨床内科医」として積極的に広報する取り組み。現在、会員の約4割に当たる310 人が認定されている。当日は、山家健一名誉会長より同制度導入の経緯について説明があったほか、部会講演と特別講演に加え、世界的に開発が進められている糖尿病治療薬SGLT2 阻害薬をめぐる教育講演が行われた。


部会講演
患者と医療チームの安全を支えるノンテクニカルスキル

大阪大学医学部附属病院
中央クオリティマネジメント部 部長・病院教授 中島和江氏
【部会講演】中島和江氏 (300x247).jpg

医療事故を未然に防ぐノンテクニカルスキルが患者を救う


 意図しない不本意な結果を招くヒューマンエラーは、いかにすれば避けられるのか。わが国の大学病院で初めて「医療の質・安全」を担当する部門として設置された大阪大学医学部附属病院中央クオリティマネジメント部の中島和江氏は、人間が安全に仕事を行うために必要な要素について説明した。
 その中でも非常に重要なものとして、専門家のテクニカルスキルを補い、安全かつ効率的に業務を遂行できるような認知能力、社会能力、人的資源を活用できる能力を意味する「ノンテクニカルスキル」を挙げた。
具体的には、次の7項目が示された。
 ▽状況認識▽意思決定▽チームワーク▽コミュニケーション▽リーダーシップ・フォロワーシップ▽ストレス管理▽疲労対処─。
 例えば、状況認識は「情報の収集」「状況の把握」「次の予測」が構成要素となるが、一点集中や認知的固着に陥ると、適切な状況認識ができなくなり、ひいては正しい意思決定ができなくなってしまう。その例として同氏は「見えないゴリラ」と呼ばれる動画や先入観を与える画像などを用いて、人がたやすく近視眼的な状態になることを説明した。安全な医療を行うためには、こうした個人の認知能力の限界を、チームのメンバーで補い合うことが重要となる。具体的には、事前の打ち合わせ(緊急事態の想定と役割分担)、チーム内での声掛け(スピークアップ)、権威勾配が上位の医師に求められる傾聴(リスニング)およびその他スタッフからの意見具申、クローズド・ループ・コミュニケーションを通じた互いの支援、が必要とした。
 まとめとして同氏は、医療安全を図る上で患者・家族の積極的な関わりも不可欠と主張。句とイラストを対にしたいろはうた(▽自己決定=二度三度たずねることも遠慮なく治療の主役はあなたです▽相談=ホッとする 相手に話そう不安な気持ち▽服薬管理=変だな?と思った時は確認を 薬は正しく飲みましょう─など)で行っている、分かりやすい医療安全への患者参加の支援例を紹介した。



特別講演
「糖尿病療養指導士の現状と課題」

和歌山労災病院 病院長/和歌山県立医科大学名誉教授(元学長) 南條輝志男氏

【特別講演】南條輝志男氏 (300x236).jpg

糖尿病のQOL向上に向けて待たれるCDEJ/LCDEの活躍

 超高齢社会を背景に約40 兆円まで膨らんだ国民医療費だが、うち糖尿病は合併症を除いて1兆2,088 億円を占める。さらに予備軍を含めて2,050 万人もの患者のQOL を損なう糖尿病の発症予防は、もはや「国家的課題」とされている。
 糖尿病療養指導の第一線に立ってきた南條輝志男氏は「高度・良質な糖尿病診療の均填化のためには、専門医と非専門医による病診連携とともに、コ・メディカルスタッフとのチーム医療が不可欠になる」と強調。臨床の現場では、こうした流れを受けて2000 年、日本糖尿病療養指導士(CDEJ)認定機構が設立され、1万8,379 人(看護師47.8%、管理栄養士23.6%、薬剤師15%、臨床検査技師8.6%、理学療法士5%)のCDEJ が認定されている(2014 年6月現在)。また、必要に迫られて全国で地域糖尿病療養指導士(LCDE)もその活動を強めている。
 糖尿病の治療は、食事療法と運動療法をベースにした日常生活習慣の是正、薬物療法(インスリン=自己注射、経口薬=自己内服)および検査(検尿、体重、血圧、血糖など自己測定)を併せ、自己コントロールの適正化をチェックする療養指導の重要性が問われる。しかし、糖尿病医療費の3分の2を占める65 歳以上の高齢者の場合、身体・認知能力、生活習慣、罹病期間や合併症といった糖尿病の病態、地域・家庭における支援体制など多様性に富む一方、理解力の低下、プライドの高さ、低血糖の起こしやすさなどの特徴から、指導に当たってはより高度な知識とスキルが求められる。
 CDEJ 認定機構の立ち上げに深く関与し、2012 年6月から同認定機構の理事長として活動している同氏は、レベルの不均一なLCDE の現状も踏まえ▽CDEJ の認知と地位の向上▽より高度良質なCDEJ の育成▽ CDEJ 資格の更新率改善▽ LCDE との協働の推進▽関連団体との連携強化─を訴えた。



教育講演①

「SGLT2阻害薬の開発経緯」

済生会野江病院 副院長 安田浩一朗氏

【教育講演?】安田浩一朗氏 (300x229).jpg
選択性と効果の安定性求めて進むSGLT2阻害薬

 糖尿病を主とする代謝・内分泌疾患領域で指導的立場にある済生会野江病院副院長の安田浩一朗氏からは、世界初の経口SGLT 阻害物質T-1095 をルーツにした選択的SGLT2 阻害薬開発の流れと作用機序、糖尿病治療薬としての可能性が説明された。
 1835 年、リンゴの樹皮から同定されたフロリジン(▽消化管からの吸収が悪く経口投与に不向き▽ SGLT2 /SGLT1 を非選択的に阻害)より開発の歴史が始まる。その後、小腸でのグルコース吸収および腎尿細管におけるグルコース再吸収はSGLT を介して行われることが証明され、相次いでSGLT ファミリー遺伝子がクローニングされたことやフロリジン誘導体T-1095( ▽ SGLT2 / SGLT1 を非選択的に阻害▽ b ガラクトシダーゼで分解)の創薬を経て、C グリコシド構造を持つ選択的SGLT2 阻害薬の臨床応用─と進む。
 今後の可能性について同氏は①高血糖のある患者では病態と関係なく血糖降下が期待できる、②体重減少効果が期待できる、③単独使用では低血糖のリスクは少ない。腎機能障害合併患者、痩せ型、高齢者、利尿剤との併用では安全性に不明な点がある─の3点を挙げた。



教育講演②
「SGLT2阻害薬の使用経験」

上田内科クリニック 院長 上田信行氏
【教育講演?】上田信行氏 (300x200).jpg
2型糖尿病治療剤「カナグル®錠」現場からの評価

 大阪大学医学部第一内科(現病態情報内科)および大阪警察病院を経て、生活習慣病を専門とする実地医家となった上田内科クリニック(大阪市天王寺区)院長の上田信行氏は、同院で実施したSGLT2 阻害薬(カナグル®錠)治験10 症例(副作用により1例脱落)の成績を呈示。同薬剤の効果を考察するとともに、処方経験から得られた使用上のコツと注意点について詳説した。
 「体重が減って腰痛や下肢痛が改善し、運動しやすくなった」など治験に参加した患者の感想を踏まえ、同氏は、同剤の特徴を「SGLT2 阻害薬は、インスリンを介することなく食後高血糖を改善する一次的効果とともに、体重減少でインスリン抵抗性を減弱する二次的効果により、血糖コントロールを行う有力な手段の一つとなり得る」とまとめた。
また、懸念される副作用として▽尿糖増加による正規・尿路感染症▽他の血糖降下薬との併用時における低血糖▽尿量増加による脱水症▽栄養状態不良患者などに投与した場合の痩せすぎ(肥満症例に用いるべき)▽ Ca 排泄増加による骨粗鬆症の悪化の可能性▽ 痩せ薬として乱用される恐れ─を挙げた。