大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン8月号掲載記事(2014年)

大阪府内科医会 第9回定例総会

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抗ウイルス療法に望まれる
かかりつけ医と専門医連携の重要性

大阪府内科医会は6月21 日、大阪市中央区のホテルニューオータニ大阪で第9回定例総会を開催。

平成25 年度事業ならびに決算報告の承認と併せ、肝臓病にフォーカスを絞った記念講演会が企画され、2演題とパネルディスカッションを通じて最新の動向が伝えられた。 (編集部)

講演Ⅰ『NASH 診療の実際と注意点』
急がれる非アルコール性脂肪肝炎 治療法の確立

吹田医療福祉センター総長
京都府立医科大学  名誉教授・特任教授  岡上 武氏


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地域で望まれるかかりつけ医と専門医の連携

 「たかが脂肪肝と放置しないこと。NAFL/NASH の多くは生活習慣病をベースにしており、糖尿病・循環器内科医も注意が必要」と厚労省の肝炎治療戦略会議メンバーであり、肝炎等克服緊急対策研究事業(肝炎分野研究班)班長も務める岡上武氏は、肝炎を自覚しないままに肝硬変、肝がんへと進行させてしまうNASH(非アルコール性脂肪肝炎)のリスクについて警鐘を鳴らすとともに、日常診療の中でそうした多くの生活者と接する大阪内科医会々員に向け、専門医への橋渡しを訴えた。
 4 大肝疾患の1 つに挙げられるNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)の患者数は、推計1,500 万~ 2,000万人を数え、B 型肝炎(キャリア~110 万人)やC 型肝炎(同~ 130 万人)、アルコール性肝障害(250 万人)と比較して桁違いに多い。
 飲酒習慣がないにもかかわらず、アルコール性肝障害と同様の肝組織所見を呈するNAFLD の根底には、多くは肥満・糖尿病・高血圧・脂質異常症といった生活習慣病があり、さらに種々の薬剤(グルココルチコイド、アミオダロオン、エストロゲン、タモキシフェン、インスリンetc)、飢餓・急激な痩せ、外科的処置(小腸短絡術、小腸吻合、胃切除術)なども原因に加わり、日米、オーストラリアなど先進国で最も高頻度に見られる肝疾患になっている。
 その8割は予後の良好なNAFL(単純性脂肪肝)が占めるが、残る2割が炎症や線維化を伴って肝硬変、肝がんに進むリスクを持つNASH である。
 推定300 万~ 400 万人と見られるNASH は、現時点で確立された治療法や著効を示す薬剤がなく、今後、肝臓病学において研究・治療の中心になると認識されている。

肝生検でなければ
確定診断できないNASH鑑別

 こうした背景を示した上で岡上氏は、NASH 発症の機序に関し、これまで英国で提唱されて広く受け入れられてきた「two hits theory: 2段階説」が否定され、さまざまな因子の絡む「multiple parallel hits theory: 複数因子並列説」が主流になっていることを報告。
 正常肝に第1のヒット(生活習慣病=インスリン抵抗性)、第2のヒット(脂質過酸化、サイトカイン、鉄=酸化ストレス)といった肝臓での脂質代謝異常、内臓脂肪細胞からの種々のサイトカイン分泌、筋肉のインスリン抵抗性などとともに、遺伝子的要因が加わり、肝硬変・肝がんへと進行するメカニズムを説明した。
 NASH の病理所見として大きな脂肪滴の沈着、脂肪肝炎(炎症性細胞浸潤、肝細胞風船様変性、マロリー体、肝細胞変性・壊死)、線維化(肝細胞周囲線維化、中心静脈周囲性線維化)が見られることをスライドで紹介。NASH の鑑別は、血液生化学検査である程度可能だが「確定診断は、組織でしか判定できない」(岡上氏)ことから肝生検の重要性を述べた。この病理所見に基づき、炎症の程度(grade)、線維化の程度(stage)を確定する。肝生検ができない場合、バイオマーカー(HOMAIR,adiponectin,ferritin,CK-18, 線維化マーカーなど)を組み合わせてNAFL、NASH の鑑別を行う。非飲酒者の定義は、男性ではエタノール換算20 g以下/日、女性は10 g以下/日以下。なお、NASH は、進行すると血清ALT 値が下がるため「専門医以外は肝臓が良くなったと誤解しがちだが、同時に血小板数が低下していれば、線維化が進行しており、要注意である」(同氏)と指摘された。
 肝臓に異常のないヒトでは、必ずALT は30IU/L だが、わが国の大学附属病院(78 施設)では、血清ALT上限値(正常値)が41IU/L を超える施設が41%(32 施設)もあり、大いに問題があることがクローズアップされた。

講演Ⅱ『ウイルス性肝炎診療の現況と今後の展開―かかりつけ医と専門医の連携の重要性』

見えてきた経口剤のみの組み合わせで行えるC型肝炎治療

関西労災病院消化器内科 部長 萩原秀紀氏

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地域レベルで望まれる肝炎ウイルス検査の啓発

 肝硬変の成因別頻度は現在、C 型肝炎によるものが約6割を占め、次いでB 型肝炎とアルコール性肝障害がそれぞれ約15%となっている。ウイルス性肝疾患を主な研究領域とする関西労災病院消化器内科部長の萩原秀紀氏からは、抗ウイルス療法における基本方針やこれからの見通しなどが説明された。
 B 型肝炎ウイルス(HBV)・C 型肝炎ウイルス(HCV)ともキャリアに対する治療ガイドラインが日本肝臓学会によって作成されている。しかし、新薬の開発や新たな知見に伴い、その治療法は日進月歩で変化してきている。講演を通じて萩原氏は「肝炎ウイルス検査の啓発と早期診断、専門医による肝機能評価」を呼び掛けるとともに、肝硬変・肝がんの撲滅に向け、診断・治療・経過観察の全てのシーンでかかりつけ医と専門医との連携の重要性を強調した。
 感染を放置すると慢性化し、30 ~40 年後に40%以上の確率で肝硬変・肝がんに進む可能性のあるC 型肝炎に対する抗ウイルス薬は現在、免疫賦活作用を持つペグインターフェロン、間接的にウイルスの複製を抑制するリバビリン、そしてHCV に特異的に働く第2世代の直接作用型抗ウイルス薬(Direct-Acting Antivirals)が3本柱となっている。高頻度でさまざまな副作用が出るペグインターフェロン、単独での抗ウイルス作用が弱いリバビリンに対し、世界に先駆けて日本で製造販売承認を取得したプロテアーゼ阻害剤シメプレビルは、強い抗HCV 作用を有し、インターフェロン、リバビリンとの併用で「従来、治りにくかった1型高ウイルス量C 型肝炎の90%近くでウイルス駆除ができるようになった」(萩原氏)と患者に朗報をもたらした。

ウイルス性肝炎の
治療法の今後について

 今後のC 型肝炎治療では、66 歳以上・血小板数15 万未満の線維化進展例など高い発がんリスクを持つグループは、早急な抗ウイルス療法が必要とされる。また、今後の展開として同氏は「2年以内に経口抗ウイルス剤のみの組み合わせで大多数を治癒に導ける」との見通しを伝えた。
 一方、HBV は、免疫力の発達した青少年期以降に初めて感染しても劇症化しない限り、ほとんど治癒する。しかし、幼少期での感染の場合、高確率でキャリアとなり、10 ~ 15%が慢性肝疾患に進行する。B 型肝炎に対する抗ウイルス療法は、HBs 抗原の消失を長期目標とする(短期目標は、ALT 持続正常化、HBe 抗原陰性、HBV DNA 陰性または低値)。
 B 型肝炎における治療対象については、慢性肝炎の場合、HBe 抗原の陽性・陰性にかかわらず、ALT31 U/L以上かつHBV DNA 4 log copies/mL以上であり、ペグインターフェロンが第一選択となる。また、肝硬変では、HBV DNA が陽性であれば対象となり、核酸アナログ薬エンテカビルが第一選択になるとの指針が示された。