大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン6月号掲載記事(2014年)

大阪府内科医会 第9回定時総会記念講演会


大阪のがん医療と最新の粒子線治療をテーマに講演

大阪府内科医会は4月19日、第9回定時総会を開いた。現会長の福田正博氏を引き続き会長に選出したのに加え、記念講演会を開催。実地医家の役割が高まっている"がん医療"をテーマに大阪のがんの実情や対策、さらに最先端の粒子線治療を取り上げた。ここでは、記念講演会の2演題を紹介する。 (編集部)
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講演『大阪におけるがん』

肝・胃・肺がんの死亡率の高さが顕著
課題は早期診断割合の向上

大阪府成人病センター名誉総長・大阪対がん協会会長 堀 正二氏 

堀正二氏 (300x225).jpg


 「10年前、大阪府のがん死亡率は国内ワースト1だったが、2012年の75歳未満年齢調整死亡率では男性がワースト7、女性がワースト5。まだ、下から数える方が早いが、死亡率の年平均減少率は全国平均を上回っている」
 大阪府成人病センター名誉総長・大阪対がん協会会長の堀正二氏は、大阪のがんの疫学的動向をこう説明した。
 堀氏は「特に肝がん、胃がん、肺がんの罹患率・死亡率が全国平均より悪いことが、全がん死亡率が悪い原因」と分析。一方で、C型肝炎に起因するものが多い肝がんは、薬物治療の進歩によるC型肝炎治癒率向上が著しいため、「今後は罹患率が大きく減少すると考えられる」と述べた。胃がんの罹患率についても、ピロリ菌除菌療法の普及で減少しつつあると指摘。罹患率が横ばいにある肺がんに関しても、将来的には喫煙対策と大気汚染対策の成果で減少が期待できるとし、「このトレンドが続けば、将来は全がん死亡率を全国平均以下にできる」と予測した。
 また、堀氏は講演参加者に『2004-2008年・大阪府66市区町村別がん標準化罹患比』の資料を配布。がん種別にどの地区の罹患率が高いかを地図上に示したもので、「こういうデータを出せるのは大阪だけ」と説明した。
 大阪のがん医療の問題点はどこにあるのか─。堀氏は「早期診断割合が低いことが問題」と指摘した。
 胃がん、大腸がん、肺がんの診断時の進行度を、死亡率ランキング中位の山形県と比較した場合に、大阪府は早期(限局)がんと診断された率がいずれも低いことをデータで示すとともに、「早期診断割合の低さは、がん検診受診率と連動している」と問題提起。これらを踏まえ、堀氏は、胃がんでは検診受診の推進、肝がんではウイルス性肝炎の検査・治療体制の充実、肺がんでは喫煙率低減が重要な対策になると話した。
 続いて、堀氏はがん対策基本法に基づく大阪府の『第2期がん対策推進計画』のポイントを解説した。
 懸案の早期診断割合の向上に対しては、大阪府が2015年度からがん検診の非受診者への受診勧奨を開始し、胃、大腸、肺がんは60~69歳、乳がんは50~69歳、子宮頸がんは25~44歳と、それぞれ好発世代を対象に郵送で検診を勧めるという。
 さらに、実地医家の関心が高い、がんの診療連携パスについては、「大阪府がん診療連携協議会」の連携パス部会が府統一連携パスの作成を進めていることを紹介した。すでに5大がんと前立腺、膀胱がん、緩和ケアのパスが運用開始されているが、「実際にパスで診療するには難しいこともあるので、まずはがんを専門にしていた実地医家から開始してもらっている」(堀氏)という。がん種や病院によって施行率に差があるものの、昨年9月現在のがん診療拠点病院(国および府指定)における5大がんのパス運用件数は6,000例を超え、堀氏は「大阪は連携パスが進んでいるといえる」と結んだ。



講演『最先端のがん治療~粒子線治療~』

周辺組織被曝が小さく
がん細胞に対する効果は高い

兵庫県立粒子線医療センター医療部長 出水 祐介氏
出水氏 (300x225).jpg

 兵庫県立粒子線医療センター医療部長の出水祐介氏は、最先端の放射線治療である粒子線治療について講演した。
 現在、粒子線治療として実用化されているのは陽子線と炭素線(重粒子線)であるが、出水氏は「X線やガンマ線が質量のない光の波を照射するのに対し、粒子線は質量を有するイオン粒子を照射する」と原理の違いを説明。これによって深さ方向への線量分布の違いが生じ、「がん病巣に合わせて高線量を照射し、皮膚には比較的低線量で、病巣より奥にはビームを当てないようにできる」と利点を述べた。
 治療計画の段階で、「少ないビーム数でX線の最新技術である強度変調放射線と同等以上の線量分布が得られ、不必要に照射される低線量域を減らせる」という。
 また、がん細胞に対する効果でも、炭素線は利点が多い。出水氏は、①X線はフリーラジカルを発生させることでがん細胞のDNAを間接的に障害するが、炭素線はDNAに直接的に作用し、損傷比率が高く二重鎖切断を起こしやすいため修復されにくい、②等線量を照射した場合の生物学的効果比で、炭素線はX線の1.2~3.5倍、③酸素増感比が小さく、X線が効きにくい低酸素細胞にも有効、④細胞周期依存性が小さく、X線が効きにくいS後期細胞にも有効─などの利点を挙げた。
 次に出水氏は粒子線治療の対象疾患について解説。頭蓋底腫瘍、頭頸部がん、肺がん、前立腺がん、直腸がん術後再発例、骨軟部腫瘍の原発性腫瘍などは、どの施設も共通して対象としているが、「施設ごとに特色もあり、転移性がんを対象とする施設もある。当施設では膵がんに注力している」と話した。
 その上で、出水氏は粒子線によい適応を有する疾患として、X線に抵抗を示す悪性黒色腫、腺様嚢胞がん、嗅神経芽細胞腫の頭頸部非扁平上皮がんと、骨軟部腫瘍を挙げるとともに、周辺組織への被曝が問題になる頭蓋底腫瘍、鼻副鼻腔がん、間質性肺炎のある肺がん、肝予備能の低い肝がん(ただしChild-Pugh分類Bまで)、小児がんなどでも有用性が高いと説明した。中でも「骨軟部腫瘍は炭素線が最も期待される領域の1つで、仙骨脊索腫では手術に取って替わろうとしている」(出水氏)という。小児がんは成長障害や二次発がんが問題となるが、「この点でも粒子線が有用」との考えを示した。
 しかし、粒子線治療にもリスクがあり、消化管に過度に当たると潰瘍、出血、穿孔などが起きやすい。そこで、同センターと神戸大学は、開腹下で腫瘍と消化管の間にスペーサーを挿入して照射する手法を共同開発。現在、医療機器メーカーと協力して体内吸収型スペーサーを開発し、今夏から臨床試験に入る予定という。
 最後に、出水氏は粒子線治療の課題として「約300万円かかる治療費」の問題を指摘した。設備自体の建設費(陽子線約70億円、炭素線約140億円)や電気代が高額であるためだが、「陽子線は設備の小型化、低価格化が進み、民間保険の先進医療特約も普及してきている」と見通しを示し、保険適用についても「残念ながら今回改定では実現しなかったが、有用性の高い小児がんなどから適用する議論が進んでいる」と話した。また、「積層原体照射、スポットスキャニングなど、さらに高精度に病巣だけに照射できる手法が開発されてきている」と最新技術を紹介した。