大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン1月号掲載記事(2014年)

三府県(大阪・奈良・和歌山)内科医会合同学術講演会

「高齢者診療におけるピットフォール」を各領域専門家が講演

 大阪府内科医会、奈良県医師会内科部会、和歌山県医師会内科医会は1116日、3府県合同学術講演会を開催。「高齢者の診療におけるピットフォール」をテーマに、感染症、骨粗鬆症、老年医学の専門家が講演した(編集部)。

 

講演Ⅰ 高齢者における呼吸器感染症治療

大阪大学医学部附属病院 感染制御部副部長 関雅文氏

 関 (200x150).jpg

 

市中肺炎患者の入院判断に簡便な「A-DROP」活用を

 大阪大学の関雅文氏は、肺炎診療に関する最新情報を提供した。

 関氏は、市中肺炎の診療では、重症度分類「A-DROP」の利用を呼びかけた。これは、Age(男性70歳以上、女性75歳以上)、DehydrationBUN21mg/dL以上または脱水あり)、Respiration(SpO290%以下)Orientation(意識障害あり)、Pressure(収縮時血圧90mmHg以下)の5項目の所見の重積数だけで重症度が判断できる簡便な国際的指標で、「入院させるかどうかの判断にぜひご活用いただきたい」と提言。CRPも予後との関連が強く、「CRP15以上なら入院させて良いと思うし、CRP15が内服剤と点滴を使い分ける目安にもなる」と示唆した。

続いて同氏は、抗菌薬治療に言及。治療効果を高め、耐性菌出現を防止する意味で、抗菌薬治療が必要と判断したならば、短期間に高用量で治療することが望ましいとし、「いずれの肺炎でも、抗菌薬の基本は高用量のペニシリン系薬」とした。ただし、「高齢で慢性呼吸器疾患を持つ患者では最初からキノロン系薬を使用する」ことや「糖尿病などリスクのある高齢者のインフルエンザには抗インフルエンザ薬とマクロライド系薬の併用」も考慮すべき選択肢と述べた。

また、近年、ペニシリン系薬などは、高用量で投与回数も1日3~4回が推奨されるようになった。これは、肺炎球菌などに対するMIC(最少発育濃度)を越える時間を長くするために、投与回数を増加させるというPK-PD理論に基づいている。一方で、キノロン系薬などでは投与回数は1回として、代わりに用量をこれまでより大幅に高めている。これらの内容に沿った市中肺炎ガイドラインの検証調査では、高用量ペニシリンを中心としたガイドラインの推奨レジメンが有効率95%にもなることが判明した。

 最後に同氏は、日本のデータで肺炎球菌23価ワクチンの医療費削減が示されたとして、特に糖尿病などを有する高齢者にはワクチンを積極的に奨めてほしいと提案した。

 

講演Ⅱ 整形外科の立場からみた骨粗鬆症

産業医科大学 整形外科准教授 酒井昭典氏  

 酒井 (200x150).jpg

 

閉経後の2型糖尿病患者は骨密度正常でも骨折が多い

 産業医科大学の酒井昭典氏は整形外科の立場から骨粗鬆症と骨折、転倒、治療薬を解説した。

 撓骨遠位端骨折は、骨粗鬆症の初発骨折として最も頻度が高いが、酒井氏らが転倒による閉経後撓骨遠位端骨折患者125例を解析したところ、骨密度が低いほど骨折部の転位(ズレ)の程度が大きく重傷化しやすいことがわかった。これは手術方法にも影響を与え、骨粗鬆症が無ければ簡易的なピンディングで済むが、骨粗鬆症があれば掌側ロッキングプレート固定術が必要になるという。重傷例では尺骨骨折が合併することがあるが、酒井氏らは7年で生体内に吸収されるプレートをメーカーと共同開発し、尺骨骨折に対応していると述べた。

一方、2型糖尿病は骨折リスクが高いことが知られている。酒井氏らが転倒受傷した閉経後撓骨遠位端骨折患者110例を解析すると、2型糖尿病があると、骨密度が正常でも骨折していることや、撓骨の短縮程度が大きいことがわかった。酒井氏は「2型糖尿病患者は骨密度より骨質が劣化している。皮質骨が多孔化している可能性がある」と推論した。

さらに、日常臨床で多く見かけられるという骨粗鬆症とカルシウム代謝が阻害された骨軟化症が合併した症例を示し、「まずビタミンDでカルシウム代謝を是正してから、骨吸収剤を投与する手順を踏む必要がある」と指摘した。ビタミンDには転倒リスクを下げるという報告もあるという。その上で、酒井氏は骨粗鬆症の重症度を椎体骨折既往や骨密度などのリスクで分類し、治療薬の使い分けを解説。比較的軽症では「SERMやビタミンDを選択」するが、その中で骨吸収マーカーが高い人、急速な骨量減少者には「ビスホスホネートやデノスマブを選択する」とした。重症では「ほとんどビスホスホネートやデノスマブを選択するが、ビスホスホネートを5年くらい服薬している人は、休薬してSERMやビタミンDにスイッチすることもある。テリパラチドは非常に再骨折リスクの高い患者に使用する」とまとめた。

 

特別講演 健康長寿と生活習慣病

大阪大学大学院医学系研究科 老年・腎臓内科学教授 楽木宏実氏

 楽木 (200x150).jpg

CGA7で高齢者を総合的に評価し治療法選択や介護支援に生かす

 大阪大学大学院の楽木宏実氏は、日本老年医学会が実地医家向けに作成した『健康長寿診療ハンドブック』のエッセンスを中心に講演した。初めに楽木氏は、高齢者慢性疾患の総合的管理では、身体的機能、精神・心理機能、社会経済的機能、価値観などを考慮して治療法を決定・実施し、介護や社会活動を支援する考え方が重要として、7つの簡単な質問で、意欲、認知機能、手段的ADL、基本的ADL、情緒・気分を評価するCGA7(高齢者総合機能評価スクリーニング)を紹介した。

CGA7では、例えば、「ここまでどうやってきましたか」という質問で手段的ADLを評価する。手段的ADLは買い物や服薬管理など8項目の生活動作で、「1つでもできない項目があると1人暮らしは不可能といえるが、それが治療選択に大きな影響を与える」(楽木氏)。一例として服薬管理できない高齢者に対しては、「服薬数を少なくする、服用法を簡便化する、服用時間を介護者の出勤前や帰宅後にまとめる、剤形の工夫、一包化、服薬カレンダーなどの対処法がある」と説明した。また、高齢者のうつに対しては「老年期うつ評価尺度GDS15が有用」と述べた。

一方、アンチエイジングと生活習慣病管理では、専門の降圧治療においては「昔は『血圧を下げると認知機能が低下する』と言われたが、HYVET試験で血圧を下げても認知症は増えないことが証明された」と強調。「米国の退役軍人約80万人を対象にした観察研究ではARBが認知症発症を抑制したデータがある。動物実験ではARBが脳血管の酸化ストレスを抑制し、脳血流を増加させたという報告もある」と付け加えた。最後に同氏は最近の老年医学で注目されているFrailty(虚弱)の概念を説明。移動能力、筋力、活力の低下、栄養障害、疲労感を示す病態で、最上流にある生活習慣病を基盤とした慢性的な炎症やホルモン異常等がサルコペニアを経てFrailtyにつながる可能性を示唆した。