クリニックマガジン12月号掲載(2013年)
大阪府内科医会第13回推薦医部会講演会
「膵がん、心不全:臨床内科医にかかる早期発見」
大阪府内科医会は10月26日、ホテルニューオータニ大阪で第13回推薦医部会を開催し、講演会を行った。見つかりにくい膵がんと、高齢者で増加傾向にある心不全という、内科医にとって難しい疾患を取り上げ、治療戦略や患者・家族との関わり方などが示唆された。(編集部)
講演Ⅰ『患者さんと向き合う癌医療~私たち医療者にできることは?~』
チームで取り組む患者・家族教室
国立がん研究センター中央病院肝胆膵内科科長 奥坂拓志氏
国立がん研究センター中央病院で肝胆膵内科の科長を務める奥坂拓志氏は、「がん治療がこれほど発達しているにもかかわらず、膵がんはいまだに予後が厳しい。他の臓器の隠れた位置にあるため早期発見が困難で、見つかったときには遠隔に転移し、手術不能の病変になっていて、積極的な抗がん治療を施しても長期生存が期待できないことが多い」と、強調した。5年生存率を見ても、乳がんは87.7%と好成績を収めているのに対し、膵がんは最下位の5.5%、次いで胆のう・胆管がんが下から2番目の20%強であるから、膵がんがいかに難しいかがわかる。有効な抗がん剤の数も少なく、治療のバリエーションが限定されていることも理由にあげられる。ただ、膵がんだけをみれば、ここ10年で生存期間は4~5カ月から10カ月へと延長された。
では、延命されて、患者のQOLは向上したのだろうか。進行膵がんの患者は、がんに伴う種々の症状を抱えながら自宅で療養を行っており、情報不足あるいは情報過多による不安で、恐怖心を抱えている場合が多い。患者だけでなく、家族が正しい知識を持っていないために、病気の進行に対処できないケースも見られ、多くのサポートが必要である。
そこで、奥坂氏は、患者と向き合う方策として、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、心理療法士、ソーシャルワーカーなどの医療スタッフと連携して患者教室を開催した。対象は膵がんと胆道がん患者である。単なる情報提供にとどまらず、さまざまな職種と患者と家族が一緒に取り組むことで、チームとして寄り添っていることを実感し、互いの存在を確認し合う機会にもなっている。ただ、患者や家族は過敏に反応するので、情報の内容は十分に精査している。
2011年2月にワークショップを開いたところ、他の医療機関からも賛同が得られ、現在では同じように患者教室を開いている医療機関が全国10施設に及んでいる。とくに神奈川県立がんセンターとは交流が深く、英知を結集してよりよい教室づくりを行っている。
患者家族からも「心が楽になった」との評価があり、奥坂氏は自信を得たという。今後は、「地域の医療機関へ連携の幅を広げ、患者さんの安心感の増大や、治療の継続性の向上を図りたい」としている。
講演Ⅱ『BNP・NT-proBNPを心不全医療に活かす』
HFpEFの早期診断と治療が重要
奈良県立医科大学 第一内科学教授 斎藤能彦氏
死因別にみた死亡率は、がんと心疾患、脳血管疾患が右肩上がりに増加している。心疾患では心不全と急性心筋梗塞による死亡が増加傾向にある。とはいえ、ここ50年、医薬品の開発で慢性心不全の予後は劇的によくなった。利尿薬とジゴキシンしかなかった治療薬にACE阻害剤が加わったことで、罹患から1年後の死亡率は23%軽減された。さらにβ遮断薬の開発で33%、ARBで30%と、新薬の導入で死亡率はその都度抑えられてきた。しかし、高齢化を考えると、心不全の患者数が減っていくとは思えない。
奈良県立医科大学第一内科学教授の斎藤能彦氏は、心不全には左室収縮能が劣っていて駆出率の低いHFrEF(Heart Failure with Reduced Ejection Fraction)と駆出率が保たれているHFpEF(Heart Failure with Preserved Ejection Fraction)があることに着目し、「これまでの治療戦略はHFrEFが対象だった。しかし、いろいろな研究から、高齢者や女性、高血圧症や弁膜症を合併した人にHFpEFが多くみられることがわかった。しかも、HFrEFとHFpEFの死因や死亡率を比較調査したところ、有意差がない。したがって、特徴のないHFpEFを診断するには、かかりつけ医ともいえる臨床内科医の協力が必須である。日常診療で疑いがあった時、早い段階でBNPなどの検査をして欲しい」と要望した。
日本心不全学会では、心不全検査を広く臨床内科医が利用できるよう、「血中BNPやNT-proBNP値を用いた心不全診療の留意点について」をステートメンとして作製した。BNP値とともに、その遺伝子前駆体で繋がっていたNT-proBNP値を示していることが特徴である。検査値を4段階にわけ、BNP40pg/ml(NT-proBNP125pg/ml)未満で心不全の可能性は低いと思われるが、BNP40~100pg/ml(NT-proBNP 125~400pg/ml)で軽度、BNP100~200pg/ml (NT-proBNP400~900pg/ml)で治療対象の可能性あり、BNP200pg/ml(NT-proBNP900pg/ml)以上では治療対象の可能性が高いとしている。
斎藤氏は「BNP値が100pg/ml、NT-proBNP値が400pg/mlを超えたら、心エコー図検査などを早期に実施したほうがいい」と示唆した。
パネルディスカッション『がんと生活習慣病』
不安を抱かせない検査が重要
パネルディスカッションでは、開業医がしばしば直面する健康保険請求の枠について議論された。
BNPの検査は、健康保険で月1回という規定があり、大阪府内科医会副会長で司会を務める泉岡利於氏は「BNPの測定は、とくに審査が厳しい」と指摘した。斎藤氏は「通常は月1回の測定で十分だと思われるが、病状が不安定で複数回の測定が必要なときは、腎機能を含めてトータルで判断できるBNK-proを測定することを勧める」と、提案した。
また、膵がんのように判断が難しい病気の場合、どの段階で画像診断をするかということも議題にあがった。大阪府内科医会会長の福田正博氏は、「日ごろから健診を受けてもらうよう指導し、早期発見に繋げるべき」と述べた。奥坂氏は、「患者さんがかかりつけ医のもとに戻りたくないというケースは、訴えから診断までに時間がかかった人に多い。不安を掻き立てないよう、胃の検査と偽ってでもすい臓を調べるべき」と、患者と医師の信頼関係を強調した。
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