大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン9月号掲載(2013年)

第9回一般医・精神科医ネットワーク研究会

SDMによる治療継続の向上と医師の応招義務

一般医・精神科医ネットワーク研究会と大阪精神科診療所協会は713日、「第9回一般医・精神科医ネットワーク研究会(G-Pネット)」(後援:大阪府内科医会ほか)を開催した。同研究会は、一般医と精神科医が精神的疾患を抱える患者について、双方に紹介し合えるようなシステム作りを目指している。今回の講演会では、精神的疾患の代表ともいえる「うつ病」と「医師の応招義務」をとりあげ、患者への向き合い方について討議された。 (編集部)

 

●基調講演

杏林大学医学部精神神経科学教室准教授 渡邊衡一郎氏 渡邊1 (200x133).jpg

「抗うつ薬治療におけるアドヒアランス―お薬を飲み続けると言うこと―」

SDMの導入でアドヒアランスを向上

杏林大学医学部精神神経科学教室准教授の渡邊衡一郎氏は、まず、服薬や治療継続の程度を表すアドヒアランスについて従来のコンプライアンスと比較し、WHOでは慢性疾患にはアドヒアランスの表現を用いることを推奨したと紹介した。しかしながら抗うつ薬のアドヒアランスは決して高いものではない。

渡邊氏らが367人のうつ病患者の治療継続率を1年間調査した治療実態では、6か月後の治療継続率がA薬で51.5%、B薬で19.4%と、薬の種類によって差が生じていた。11回投与の薬剤や、服用開始時の副作用が少ないもの、増量が簡単なものほど継続率は高かったという。

渡邊氏はアドヒアランスを高めるために、患者に「今の薬はどうか?気に入っているか?」と質問することを提案した。シンプルだが、患者の不満がどこにあるかを明らかにするには一番効果的だという。それにより、患者のライフスタイルに合わせて、許容可能な薬剤に処方変更できれば、アドヒアランスは向上すると考えられる。

 

●ワンポイントアドバイス

山田総合法律事務所弁護士 山田長伸氏 山田1 (200x133).jpg

「医師の応招義務に関して」

行政解釈は医師にきびしい

山田総合法律事務所の山田長伸氏は、医師法19条で規定されている医師の応招義務について法的問題をワンポイントアドバイスした。

医師法では「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」とある。

この義務違反に対して、刑事的な責任が追及されることはないようだが、民事的には1992630日、神戸地裁が、「医師の応招義務は公法上の義務であり、それが直ちに民事上の責任に結びつくものではない」としながらも、患者保護の側面から「診療拒否を正当ならしめる具体的事実を主張・立証しないかぎり、患者の被った損害を賠償すべき責任を負うと解するのが相当である」との判決を下し、責任を問われる可能性を示した。

一方、行政解釈によると、19558月に出された医収第755号で「診療拒否は、医師の不在または病気等により事実上診療が不可能な場合に限られる」とされ、医業報酬の不払いや診療時間外の診察、ある程度の天候の不良、軽度の疲労などで拒絶することは、義務違反にあたる可能性があるとされている。医師が標榜する専門診療科以外の診療を求められた場合も、「応急の措置など、できるだけの範囲のことをしなければならない」とされ、山田氏は「行政解釈上、医師はきびしい立場にある」と述べた。

 

●パネルディスカッション

「アドヒアランス向上と医師の責務に関して」 パネルディスカッション(1) (200x133).jpg

第二部では、G-Pネットの代表世話人である渡辺洋一郎氏(日本精神神経科診療所協会会長)と石蔵文信氏(大阪樟蔭女子大学教授)の司会で、第一部に講演された二人のパネリストを迎え、「アドヒアランスの向上と医師の責務に関して」実践的な知見が討論された。

うつ病患者のなかには、疾患を受け入れられない患者が多い。渡邊氏は、「病状や治療法をメモに書いて患者に持ちかえってもらうと、それをゆっくりと見て、場合によっては家族も理解を示すことがあり、数日後の再診時に流れが変わることがある」と、患者や家族に考える時間を用意することを提案した。山田氏も「家族に協力を求める形は理想的で、患者のためという気持は伝わるはず」と、述べた。

また、精神的疾患を持つ患者のなかには、医師が誠意をもって接していても、暴力的行為に及ぶ人がいる。しかし、そんな場合でも医師には応招義務がある。渡邊氏は「患者の怒りたい気持ちを理解しようと努力すること。治療の通過点として捉え、患者の感情を受け入れることが大切」と語った。共感を持ち続けると、逆に信頼関係を築くことができることもあるという。また、山田氏は「それでも信頼関係が築けないときは、お引き取りいただくか、他院を紹介するなどの対策を講じるべき」と述べた。

会場からは「お酒を飲んだ状態での診療」について質問があった。山田氏は「自動車の運転と違って、酔っていても可能な範囲で診察すべきだと思われるが、泥酔状態では無理である」とし、「すべてはケースバイケースで、誰が見ても正当な理由であると思える場合以外は、応招義務が発生する」と、まとめた