大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン8月号掲載(2013年)

大阪府内科医会第8回定例総会講演会

慢性疼痛は心身医学で対処

 大阪府内科医会は629日、ホテルニューオータニ大阪にて8回定例総会を開催し、慢性疼痛をテーマにした講演会を行った。大阪府内科医会が会員を対象にした慢性疼痛の治療に関する実態調査が公表されたほか、在宅での痛みやプレバガリンの処方経験など臨床的観点からみた一般演題が発表され、特別講演では慢性疼痛の治療戦略などが示唆された。(編集部)

 

一般演題『在宅で診る痛みのいろいろ』

痛みの緩和など、支え癒す医療が求められる

医療法人出水クリニック院長 出水 明 氏    出水 (200x133).jpg

出水クリニック院長の出水明氏は、岸和田市を中心に泉州地域の医療機関と連携して「岸和田在宅ケア24」を立ち上げ、36524時間対応で在宅療養支援に取り組んでいる。参加する7つの診療所はいずれも常勤医1人でそれぞれの外来診療を行いながら、地域の訪問看護ステーションとともに在宅で年間400500人の患者を診ているという。

その豊富な経験から、出水氏は在宅患者が訴える痛みについて詳述した。「在宅診療でよく遭遇する痛みは、筋肉痛や関節痛などの筋骨格系の痛みや帯状疱疹からくる痛み、神経痛など。患者の多くは神経筋難病や脳卒中、末期がんを患っており、予後不良の難治性疾患に伴う痛みが多い」(出水氏)という。

したがって、在宅診療で侵襲的な治療を行うことはまれで、ガイドラインに沿って各種鎮痛剤を組み合わせて対処している。出水氏は「薬剤の選択や匙加減といったところは、患者の日常を診ているからこそできるものであり、また、在宅では心の痛みも多いので、治す医療とともに支え癒す医療、つまり広義の緩和医療が求められる」と強調した。

 

一般演題『当院におけるプレガバリンの処方経験』

投与量25mgで、副作用が激減

堀口整形外科医院院長 堀口 泰輔 氏    堀口 (200x133).jpg

 堀口整形外科医院院長の堀口泰輔氏は、神経障害性疼痛に適応が拡大されたプレガバリンについて、今後は整形外科領域だけでなく内科でも処方される機会が増えるとして、その使用経験を語った。

プレガバリンの用法・用量は、初期用量として1150mg、クレアチニンクリアランスが低い人や高齢者は2575mgからの服用が推奨されている。堀口氏はめまいや傾眠などの副作用を回避するため、クレアチニン値にかかわらず開始投与量を25mgとして治療したところ、うまく痛みをコントロールできた症例が多いという。市販後直後調査の副作用出現率が64.5%(10841680例)だったのに対し、堀口医院では11.6%(29251例)の好成績だった。しかも、プレガバリン導入前後で、点滴静注は19人から10人へ、仙骨硬膜外ブロックの難治症例は30人から5人へ、ペインクリニックへの紹介は15人から10人へと減少した。

堀口氏は、「プレガバリンは副作用が回避できれば神経障害性疼痛の第一選択薬になる高いポテンシャルを持っている」とし、今後は、「特に上半身の神経痛の症例に対してその適応をもつ葛根湯の併用療法が主要な副作用の傾眠に対して効果があるかなどもみていきたい」と述べた。

 

特別講演『慢性の痛みの診療法-診察のコツと薬物療法の位置づけ』

痛みは2度訊いて、患者を知る

大阪大学大学院医学系研究科 疼痛医学寄附講座

            教授 柴田 政彦 氏  柴田1 (200x133).jpg

大阪大学大学院医学系研究科で疼痛医学寄附講座教授の柴田政彦氏は、「慢性の痛みを診ることは、病気の診断をするというよりも、症状や所見から痛みが慢性化している仕組みを類推し、まず痛みを取り除く治療を行うことから始めることである」とし、さらに、慢性痛の治療目標は、痛みやその随伴症状を軽減させること、痛みによって損なわれている機能を改善し、家族や職場など周囲への悪影響を取り除き、不必要な治療を省いてコストを軽減することにある、と説明した。

その方策として、柴田氏は診察の前後で2回、問診することを提案した。「最初は、通常の問診でいつから、どこが、どんなふうに痛いかを聞く。医療機関の受診歴も大事。次に必ず痛いところを触って理学所見を得る。さらに、もう一度より詳しい問診を行う。痛みの性質(ズキンズキン、ピリピリ)、頻度、持続時間、時間帯、睡眠や体動との関係、平均的な1日の過ごし方、家族のなかでのポジション、仕事歴など、いろいろな方向から迫ると痛みの全体像が見えてくる」(柴田氏)。

つまり、慢性の痛みを診るコツは、患者をわかろうとすることにある。神経障害性疼痛は、傷や疾患が原因となって体性感覚系の障害を引き起こすもので原因が治癒した後も続く場合があるので注意が必要である。慢性痛には精神科疾患を併存するケースや不安感や不信感が関与している場合もある。心理学的因子の関与の大きな患者さんの場合、医療従事者が話に耳を傾けるだけで解決することも多い。

 柴田氏は、「慢性痛の治療や予防には、中立的な立場で患者の訴えに耳を傾けることが重要で、そうすることにより患者との信頼関係が構築されよい結果につながる」と、患者に向き合う気持ちの重要性を強調した。

 

大阪府内科医会「慢性疼痛の治療」実態調査    野崎 (200x133).jpg

大阪府内科医会理事の野崎京子氏は、大阪府内科医会が会員822に郵送し、回答が得られた318人の内科医の慢性疼痛治療の実態を発表した。それによると、日常診療の中で何らかの慢性の痛みを訴える患者は1日あたり10人以下のところが55%と約半数を占めていたが、1130人が31%、3150人が6%、50人以上が8%と、慢性疼痛で悩む患者が多く見られた。また、慢性疼痛患者のうち、神経障害性疼痛だと思われる患者が来院した場合は、「内科医自身が診断し薬物治療を行う」(21%)と「行うこともある」(50%)を合わせると、約7割が自ら処方していた。選択する薬剤はNSAIDSが主流を占め、抗てんかん薬、ノイロトロピン、アルドース還元酵素阻害薬、麻薬性鎮痛薬、抗うつ薬などさまざま。専門医に紹介したのは29%で、うちわけは整形外科が49%、ペインクリニックが19%、神経内科が16%だった。痛みは多くの疾患に伴う症状であり、野崎氏は「痛みに関する知識や薬剤・臨床経験の情報などの蓄積は、臨床内科医の日常診療の幅を広げると思われる」と語った。