大阪府内科医会からのお知らせ

クリニックマガジン7月号掲載(2013年)

大阪府内科医会定例講演会「女性の臍から下の痛みについて」

大阪大学大学院医学研究科産科学婦人科学教室 教授 木村 正 氏    木村 (200x133).jpg

女性の慢性骨盤痛は、まず主訴を取り除き、問診で原因疾患を探る

 大阪府内科医会は522日、エーザイ株式会社大阪コミュニケーションオフィスで、定例講演会を開催した。今回は、「女性の臍から下の痛みについて」をテーマに、大阪大学大学院医学研究科産科学婦人科学教室教授の木村正氏講演した。女性が臍から下の痛みを訴えるとき、それが女性特有の不定愁訴といえども、最初は内科を受診する場合が多い。そこで、一般内科医が、婦人科領域の下腹痛・骨盤痛にも対応できるよう、わかりやすく解説された。(編集部)

 

女性の下腹痛がどの臓器によるものか、詳細な問診で判断

骨盤のなかには膀胱、腸、腹膜、筋肉、神経など多くの臓器が存在し、女性はさらに子宮・卵巣・卵管などの内性器を持っている。下腹部に疼痛があれば、このうちのどれかに原因があり、「婦人科疾患か否かは、問診である程度見極められる」と木村氏はいう。月経と痛みの時間的関係、最終月経開始日、性器出血の有無、妊娠の有無に関する情報はもちろん、6か月以上の慢性骨盤痛が見られる場合は、さらに手術の既往歴、治療歴、性交渉や排尿・排便と痛みの関係、長時間の立位による憎悪、日内変動の有無なども問診する。妊娠があいまいであれば、反応試薬は4週(排卵後15日)で検出できるので、尿中HCG定性検査で確認できる。子宮外妊娠などで下腹部に出血や炎症が起こった場合は、たまった体液が腹膜を刺激して下痢やおう吐を起こすので、消化器疾患と間違えないよう注意が必要である(木村氏)。

 

痛くなってからの服薬では遅すぎる

女性の急性骨盤痛では、子宮筋腫の変性や流産、子宮外妊娠破裂などの原因も考えられるが、一般的には月経時に引き起こされる月経困難症が最も多い。月経困難症は、機能的疾患による原発性疼痛と、器質的疾患による続発性疼痛に区別される。月経開始前から終了後数日にわたって痛みが続く場合は、器質的疾患による続発性疼痛が疑われる。特に思春期から激しい長期間の月経痛/周期的下腹痛を訴える場合は処女膜閉鎖や副角子宮といった性器奇形も考慮する必要がある。

いずれにせよ、これらの痛みに対して、医学書にはNSAIDで対応すると書いてある。しかし、木村氏は「NSAIDは効きが遅いので、痛み出す前か痛みを感じると同時に服用しなければ、毎月痛みと格闘することになる。"痛い時に飲みなさい"という漫然とした指導は、患者に不信感を与えることになり、避けるべきである」と強調し、「イブプロフェンやメフェナム酸などの即効性薬剤を痛くなる前から定期的に2-3日服用させることが有効である」と示唆した。また、月経困難症は周期的かつ予想可能な痛みであり、木村氏は「妊娠を望んでいないなら、NSAIDあるいは低用量ピルが第一選択薬である」と述べた。

 

プライマリーケア段階での適切な対応が患者との信頼につながる

一方、月経と関係なく6か月以上痛みが続くようなら、慢性骨盤痛(CPP)が疑われる。日本でCPPは、喘息と同等の頻度で発症しているにもかかわらず、最近まで婦人科の教科書に記載されていなかった。限界まで痛みを我慢する日本人の民族性と、原因を追究する根治療法に主眼が置かれていて、米国のように痛みを除くことを第一ステップとした医療概念がなかったことによると思われる。とはいえ、CPPは生活に支障をきたすほどの痛みである。木村氏は「"気のせい""そのうち治まるから大丈夫"などと言ったりせず、とりあえずNSAIDや低用量ピルなどで主訴を取り除き、患者さんとの信頼関係を築くことと並行して診断を進めることが大事である。原因疾患は詳しい問診と腹部視触診、婦人科的診察を含む理学的所見に加えて、補助的な画像診断を総合して判断する」と対処法を提言した。慢性骨盤痛の診断の第一歩は詳細な問診であり、周辺臓器に関する総合的知識も含めて考察しなければならない。CPPの病因は子宮内膜症、子宮筋腫、骨盤内うっ血、卵巣腫瘍、性器脱、骨盤内癒着、間質性膀胱炎/bladder pain syndrome、過敏性腸症候群、筋肉筋膜症候群、神経の巻き込み、などさまざまである。木村氏は、女性の骨盤痛に関して、痛みの度合いと原因疾患によって表のように治療法をまとめ、「疼痛は生活を脅かすものなので、解決したときの患者の喜びは非常に大きい」と、締めくくった。

 

骨盤痛の治療:level A
治療法 適応
低用量ピル 原発性月経困難症ほか
GnRHアゴニスト 子宮内膜症・骨盤うっ血
NSAID 月経困難症・中等度の痛み
プロゲスチン 子宮内膜症・骨盤うっ血
腹腔鏡下切除 ステージⅠ~Ⅲ子宮内膜症
仙骨前神経叢切断術 正中の月経痛
仙骨子宮靭帯切断術 根拠に乏しい
精神療法 慢性骨盤痛(CPP)
骨盤痛の治療:level B
治療法 適応
GnRHアゴニスト 子宮内膜症以外のCPP
癒着剥離 長管の密な癒着のあるCPP
子宮全摘 生殖器の痛み
運動・体操 CPP
VB1、マグネシウム 月経困難症
鍼、経皮神経刺激 原発性月経困難症
骨盤痛の治療:level C
治療法 適応
抗うつ剤 CPP
オピオイド CPP(専門家にゆだねる)

(コラム)

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連絡先:大阪大学産婦人科事務局代表 上田豊 06-6879-3351